河豚川ポンズ

NOPE/ノープの河豚川ポンズのネタバレレビュー・内容・結末

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

後半からの盛り上がりが異常なホラー映画。
この感覚、「来る」を観た時のそれに近いかも。

ハリウッドにほど近いカリフォルニアのとある牧場。
そこはかつて世界で初めて撮影された映画の撮影モデルとなった馬を生産した牧場であり、西部劇にも多くの馬を出演させたヘイウッド・ハリウッド牧場だった。
しかしそれも今や昔の話、OJ・ヘイウッド(ダニエル・カルーヤ)とエメラルド・ヘイウッド(キキ・パーマー)の兄妹は、CGが主流となる業界にあぶれ、馬を遊園地へ売らなければ生活もままならない状況だった。
果てには運園地のオーナーであるジュープ(スティーブン・ユァン)がこの牧場を買い取りたいと言い出す始末。
打開策も見えないまま酒に溺れるOJだったが、さらに馬が突然牧場から走り去ってしまう。
慌てて追いかけるOJだったが、その時上空に何か大きなものがいることに気づく。
その正体不明の何かは雲間に一瞬UFOのような姿を見せ、逃げた馬を砂と共に巻き上げたかと思うと、連れ去ってしまうのだった。

みんな大好きジョーダン・ピール監督の新作。
自分は相変わらずホラー苦手なのだけれど、「ゲット・アウト」「アス」も劇場では観れなかった身として今回こそは見届けなければと思い鑑賞。
前半の1時間は正しくホラー然としていて、やっぱり劇場まで観に来るべきじゃなかったと頭を抱えてた。
特にUFOのGジャンに呑み込まれた後の人々が悲鳴を上げるシーンや、チンパンジーのゴーディが撲殺するシーンとかは普通に観てて嫌になった。
そもそも自分がこう思うということは、少なくともホラー映画として一定の完成度を誇り、期待され得る役割を果たしていることの証明なんだろうけど。
ここまで1時間で、ジャンプスケアは少ないとは言っても完全に自分の苦手なタイプのホラーだったなあと思ってたら、後半から完全にギアが違う方向に入った。
もちろんGジャンに対抗できるだけの武器も何も持ち合わせていない主人公たちに出来ることは、そのGジャンをカメラに収めて存在を世界に知らしめること。
しかしその過程を西部劇チックに、めちゃくちゃ壮大に、そしてスペクタクルに描くので、もはや違う映画を観に来たのか?と思わされる程の盛り上がり。
SFホラー、アクション、そして監督の届けたい裏テーマが高いレベルのエンターテイメントとして纏まっていくのは爽快感すらある。
「AKIRA」の金田バイクを明らかにオマージュしたシーンですら、そのエンターテイメントへの昇華に一役買っていると言えそう。
世界で初めての映画と言える撮影が行われた牧場とその子孫が、世界で初めてエイリアンの存在をカメラに収めるという偶然の一致にもロマンがあるよね。

今回のGジャンの大きな特徴の一つである「直接見たものを襲う」というのがどうも今作のメッセージの肝になっているっぽい?
白人と黒人は撮る側と撮られる側、つまり見る側と見られる側に分けられており、ゴーディやGジャンの攻撃性というもののは、見られる側として消費され続けてきた存在のカウンターを表す、といったところなのだろうか。
そしてそれがGジャンが見る側、OJが見られる側に逆転した時、OJが反撃を開始するというストーリーの構造…って自分で言ってて頭がこんがらがりそうになる。
おそらく、映画業界、ひいては社会全体に蔓延する「見る側」「見られる側」に二分される絶対的なシステムに抗っていくというテーマなのだろう。
こういう考察はもはや筋が通ってるのかすら確認しづらい部分だけど、ひとまず自分の中ではこれで決着が着いた。

とりあえず初めて見る人には、ホラーのようでホラーじゃない何か壮大なものとして勧めることにします。