河豚川ポンズ

ザ・メニューの河豚川ポンズのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.9
一品一品、怨念を込めて作りました、な映画。
こういう観ていて何とも居心地が悪くなるというか、ひたすら不穏な映画って最近の流行りなんだろうか。

超有名シェフであるジュリアン・スローヴィク(レイフ・ファインズ)が店主を務めるレストラン「ホーソン」。
値段も一人数十万円するような予約の取れない高級レストランに、タイラー(ニコラス・ホルト)とマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)は幸運にも当選し、孤島にあるレストランへの船に乗っていた。
同じ船には著名な料理評論家や映画俳優、大富豪など、一流と呼べるような人々が集まっていた。
レストランでの食材はすべてその島で賄っていることに加え、スタッフたちも全員が島で共同生活を行うという徹底ぶり。
ジュリアンの大ファンであるタイラーは興奮を隠せない一方、マーゴは料理を楽しみにしつつも冷めた目で見ていた。
レストランに到着し、まるで軍隊のようにスタッフたちをまとめ上げるジュリアンは招かれた客に対して悠然と語りかける。
「今宵出される料理を、ただ食べるのではなく、味わうのです。」
そこに1皿目の料理が運ばれる、そして人生で至高のディナーが幕を開ける。

有名シェフによって振る舞われる孤島での超高級ディナーコース、しかし招かれた客人は誰にも明かしたくない秘密を抱えており、コースが進むとともに混乱に陥っていく、といういかにも面白そうなプロット。
個人的には「オリエント急行殺人事件」とか「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」みたいな、一見繋がりのない客が実は何らかの形で繋がっていたみたいな形かと思ってたら、多少あるもののそこまでのサスペンスものじゃなかった。
じゃあどういうものがテーマなのかというと、レイフ・ファインズ演じるシェフのジュリアンが人生をかけて料理に情熱を注ぎ込んできたのに対して、ただ食べて御高説を垂れて傲慢な態度を取る客人に復讐をするというもの。
イカれた殺人シェフが客人を招いて夜な夜な殺人してる的な内容かと思ってたから、意外にもパーソナルで正気を失ってないまともな動機だった。
殺人をするという一点を除いては、自分が料理人であることに矜持を持っているとても高潔なキャラクター。
それがレイフ・ファインズの演技も相まって、不気味ながら品のある雰囲気になってると思う。
そしてそれに真っ向から対するアニャ・テイラー=ジョイも、持ち前の目力の強さがジュリアンに毅然と対抗するキャラクターのマーゴとベストマッチ。
かなり大きな役割を果たすキャラクターとしてのニコラス・ホルトもいるけど、ストーリー上ではあくまでもサブの立ち位置で、メインは2人の対決が見どころ。
物理的なバトルとかではなく、演技とか精神、魂のぶつかり合い的な意味で。
そういう点でこの映画はとても見どころのある映画だった。

ストーリーのテーマ?は、少なくともこういう感想なりレビューなりを書いてる自分には耳の痛い話。
どんな創作であれ、作り手へのリスペクトを忘れてはいけないし、批評することで無意識にせよ勝手に驕り高ぶるなんてもってのほか。
そもそもけちょんけちょんにこき下ろすようなレビューは出来る限り書かないようにしてるけど。
それにしてもこんな話を思いつくあたり、監督か脚本は批評関係で何か相当辛い目を見たんだろうか。
「互いにリスペクトを忘れず、目の前の創作を楽しむことに専念すること」というのは、承認欲求が肥大しやすくなった現代において、忘れてはいけない自戒なのかもね。