河豚川ポンズ

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーの河豚川ポンズのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

偉大な王ティ・チャラとチャドウィック・ボーズマンへの追悼のための映画。
ネイモア・ザ・サブマリナー、ソー並のパワーに加えて、海も空も自由自在に動き回れて、その上帝国をまとめ上げるカリスマ性を持ってるとか反則じゃない?

ワカンダの守護者”ブラックパンサー”であったティ・チャラ王(チャドウィック・ボーズマン)が病死して1年。
ワカンダが独占するヴィブラニウムを巡って、国連はワカンダに対してヴィブラニウムの共有を要求していた。
しかしラモンダ女王(アンジェラ・バセット)はヴィブラニウムが大国に渡る危険性を主張し、傭兵がワカンダの施設へ差し向けられた事実を公表した。
国際社会で孤立が深まる中、ラモンダ女王は強い口調で抵抗を宣言する。
その一方で、ティ・チャラの妹シュリ(レティーシャ・ライト)は兄の死を乗り越えられず、兄を科学技術で救えなかった自分、そして世界に対して強い怒りを抱えていた。
そこに突然川の中から一人の男が現れる。
自身をタロカン帝国の王ククルカン、またの名をネイモア(テノッチ・ウエルタ)と名乗るその男は、ワカンダの厳重な警備を搔い潜り平然と二人の前に現れ、二人にある要求をする。
タロカン帝国もヴィブラニウムを採掘していることから、ワカンダの存在によりタロカン帝国も世界からの脅威に晒されるようになった、その足掛かりとなるヴィブラニウム探知機を作ることが出来る唯一の科学者を連れてこいというもの。
正体不明の敵の存在に成す術もないまま、シュリたちは科学者の捜索を開始するのだった。

そもそもこの映画の大きな出発点となるのは、ブラックパンサーことティ・チャラ役のチャドウィック・ボーズマンが2020年に大腸がんで亡くなったこと。
あまりに突然のことにその時の自分も夜中にニュースが飛び込んできて驚いたことをしっかりと覚えているが、それは製作陣にとってもそうだったのだろう。
映画が始まって劇中ではティ・チャラ王の病死の事実と、国を挙げて行われる盛大な葬儀。
偉大な王であり守護者でもあったティ・チャラを失ったことは、シュリやラモンダ女王の心にも暗い影を落とす。
そんなところにもはやとばっちりレベルの言いがかりでやってきた、海底帝国の王ネイモア。
前作の「ブラックパンサー」がアメリカの黒人社会にとって非常に意義あるものであったことは間違いないが、今作のネイモアはマヤ文明にルーツを持つメソアメリカ系のキャラクター。
「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」でもラテンアメリカ系のアメリカ・チャベスが登場したが、ネイモアのメソアメリカ系という設定は知る限りこの映画オリジナル。
でも足首の羽をマヤ神話のククルカンと重ねるとはなかなかおしゃれな発想。
「エターナルズ」や「ソー:ラブ&サンダー」でも、MCU世界の神話との関わりが描かれてたけど、今作でもそこに合わせてきた。
この感じだとそのうち日本の神様も、MCU世界では実はこういうキャラクターが〜みたいなことになってきそう。
そしてそんなネイモアが治めるタロカン帝国の登場は久しぶりにワクワクする展開。
こういう比較はあまり良くないこととは分かりつつも、個人的には「アクアマン」みたいな全面衝突をして派手な戦いを見せてほしかったなあとも思い、少し惜しい気持ち。
でも、ネイモアがミュータントであると発言したり、次の展開に繋がりそうな出来事がたくさんあったのは楽しみですね。

総評として、結局めちゃくちゃ面白かったかと聞かれると、正直面白いがなんだかまとまりに欠けるという印象。
2時間40分の長尺で、歴史の影に隠れてきた大国の2国が戦争寸前のところまで…!というスケールの割には、シュリがラモンダも失い復讐をするかしないかというパーソナルな問題にやや偏ってしまうことに違和感。
最後の最後には自分たちのエゴに国と民を巻き込むな、ということで踏みとどまるが、問題の仔細は違えど民を導く王のあるべき姿というテーマは、すでに「マイティ・ソー」シリーズでやってきたことではないのか。
こうなってくると、チャドウィック・ボーズマンへの追悼、シュリの新たな王としての自覚と個人的な復讐との葛藤、ネイモアとリリ・ウィリアムズという新キャラクターの紹介というなかなか大きなトピックが目白押し。
「国には民草あってこそ」という理屈はシリーズ3作やってきたソーでこそ初めて意味を持つのであって、ワカンダはともかくとして、正直いきなり出てきて1日軽く観光した程度のタロカン帝国に観客はそこまで入れ込めないでしょ。
シュリが王位を継ぐという流れも、何となくそういうものなんだぐらいには意識してたけど、本人の明確な意思表示も無いまま、当然の流れとしてブラックパンサーを継ぐのは何とも言えないモヤモヤが残る。
あくまで科学者だったのに、王族だからというだけでハーブを飲んで国を護る戦士ブラックパンサーになるのだろうか。
中盤辺りまで腑に落ちなさ過ぎて、これシュリじゃなくてナキアがブラックパンサーになるんじゃない?とか思ってたし。
それに何ら反対しない長老たちも、前作でキルモンガーを王に認めてどうなったかを忘れてしまったのだろうか。
挙げ句、祖先の平原にはそのキルモンガーが出てくる始末だし。
むしろその状況で諌められるエムバクの株だけがストップ高よ。

ここまで来るともう好みかもしれないが、よほどアクションに振り切った脳筋映画でもない限り、やはりストーリーに通底している大きなメッセージが無ければ傑作と言い難いと思う。
奇しくもチャドウィック・ボーズマンが亡くなったことで、この映画が伝えたいことも観客から期待されることも必要以上に膨らみすぎてしまったのではないだろうか。
ひとまず監督のライアン・クーグラーは来年の「クリード3」の製作に専念してくれよな!頼むぞ!ホントにマジで!