きまぐれ熊

NOPE/ノープのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.0
何回か見ないと分かんないなこれ。
表面としてはUFOに襲われるホラー映画として作ってあるだけに、そこだけでも楽しめる。けど、結局あれなんだったの?って要素がかなり多くて、そこを繋ぎ合わせると裏面のストーリーが見えてくるって感じの構成っぽい。
さすがジョーダンピール監督。ホラーの裏に別の要素を載せる事で毎回独特な味のする映画になってる。

ただ、シンプルにUFO映画としてみても、造形や音の演出が飛び道具寄りなので何が起きるか予想できず、純粋にアイディアが面白くて入り込めました。結局、襲われるまでが1番怖いので、そこのアイディアが上手いのでかなり引っ張られる。でも1番怖かったのはUFOじゃないっていう変な映画。

監督自身何回も見返してほしいって言ってるだけに、各要素の意味や対比が俯瞰で見返さないと分かりづらい形になってる。

兄妹とUFOの対決映画として見た場合、一見意味のわかんない要素で拾えたものをピックアップしてみる。

•そもそもチンパンジーのくだり何?
•襲われたリッキーはどうして後生大事にコレクション部屋なんて作ってるのか?
•そもそもあのショー何やってるの?
•リッキー同様、襲われた共演者の女の子がなんであのショーに参加してるのか?
•冷静だったホルストが最後になんで暴走したのか?


以下、ネタバレありで感想と考察。


チンパンジー、色々示唆はあるだろうけど、まずはシンプルにUFOが野生動物の様な何かであるっていう説明。と、恐怖そのものであるゴーシュがリッキーにとってはどういう存在だったかっていうのが重要。
あとは人種と資本主義の要素とかあるけど、比喩が満載。というよりこのショーのシーンに映るものほぼ全て何かの対比か比喩で埋め尽くされた設計なんじゃないか。
コレクション部屋作ってるくらいだから、忘れたいとか思い出したくもない思い出になってないのが不思議なところ。恐怖として刻み込まれているのは間違いないんだけど、それと同時に体験として脳を焼かれてしまったのかな〜って気がする。だから反芻し続けてしまう。ホラー映画を観る我々と一緒。
あのショー、UFOに馬喰わせてたってことでいいんだよね?そんな事やってなんで広まってないの?っていう疑問はあるけど、初回だったのか複数回目だったのかは分からないけど、劇中では敢えなく失敗。でもあの表情を見るにスリルジャンキーになってたんだと思う。
女の子も同様。恐怖に脳みそ焼かれてる。トラウマだったらまず来ないし、番組を思い出す共演者とも会いたくないのでは。UFO来た時嬉しそうな顔してるし。
ここまでくるとホルストが暴走したのも理解できる。功を焦ったんだな。UFO騒動を1番楽しんでそうだったエンジェルとの分水嶺は、恐怖に対する受け止め方かな。


UFOといえば未知の象徴だけど、チンパンジーを出すことによって、恐怖についての映画なんですよって絞ってるんだと思う。
野生動物として見てみても、ホルスト、エンジェル、エム、OJで向き合い方というか各々でテーマが違う。OJがGジャンって名付けるのも考えてみれば絶妙だ。乗りこなしてみせるって決意表明でもありながら、エムへの目配せなんだよね。
エムはエムで牧場の後継ぎとしてのコンプレックスが父親にある。かりにUFOじゃなくて、父親が落馬して死んだようなものと捉えると、エムの牧場に対する複雑な想いは意外とスッキリ分かりやすかったりする。

UFOは第二形態が良かったな〜。凧とクラゲを合わせた様な無機質な見た目なのに内臓のグロテスクさを想像させる造形。スプラッターに振ろうと思えばいくらでもやれそうなのに、表面的には見せず想像させるっていうのが品がある。そういう意味でもチンパンジーのシーンは暴力性や血を想像させるいい示唆になってるんだよな。
あと、監督によるとエヴァの使徒を参考にしたとか。言われてみれば新劇場版の使徒シリーズの無機物と有機物が融合した生理的嫌悪感がまさにそれだわ。

あとラストシーンのOJ、out yonder(
向こう側)って書いてある看板の奥に居るので、OJが死んでいる示唆なんじゃないかと思う。これからも見守ってるっていうハンドサインにも意味が付くし、オチとしてはかなり綺麗。
ただ乗ってる馬がラッキーなんだよな...。ゴーストだったら明確に死んでると思うんだけど、あえてボカしてるんだろうか。
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