このレビューはネタバレを含みます
まあ、アート映画よね。
自分はごりごりにジャンル映画大好きなので、こういう映画は夜中に自宅で1人で配信サービスとかでたまたま出会うようにして見たかったな。
よっぽど監督や出演者のファンならともかく、映画館に行ってまで見るのにこれでは。
読後感というのか、もっとすっきりした気持ちで家路につきたいじゃん。
どうしてこう、ね。誰もがもっと何というかスカッと人付き合いできないもんかね。
自分で生み出したヘドロに足を取られて、相手の生み出したヘドロに飲み込まれていく。
もちろんその逆も一方的なのもある。
どっちが先でも何でも良いけどさ、ちょっとね。ドロドロしすぎてる。シャワーでも浴びて落ち着きませんか。実はあちらに良いテルマエが……。
なんて。
すごいよなこの映画。嫌悪感だらけなんだもん。
しかもそう感じさせることによって、あらゆるルートでこちらに罪悪感を植え付けようとすらしてくるのがずるい。
その上監督は無傷なんだから余計にずるい。まあその点はこれだけグロテスクなものを生み出したというリスクも背負ってるんだけど。
監督たち制作側はこの映画という石を作って投じたに過ぎない。これを見て何を感じてどうするのかは映画に触れた人らに託され、波紋となって広がる。
でもこの波紋。これが津波くらいになって監督たちまで飲み込んでうねることなんてめったにない。それが起きない原因は受け取る側にあるってのが今の流れ。
実際的にしろ精神的にしろ、あの人らは一石を投じたという事実こそが真実で、こちらはただただ嫌悪感と罪悪感に苛まれるのみ。これを解消するにはこちらもこれに対する論を投げつけるしかない。でも映画なんだよこれ。相手の石は投げっぱなしで、投げ返すことはできない。やろうと思ったら同じ規模でお前も映画を撮って投げて寄越してこいってそういうことじゃんか。
ずるいんだよなあ。監督分かってんのかな。この映画を投げてくるってことは、結果的にやってることが死んだ旦那とほとんど一緒なんだよ。
それで、この映画を見た人たちはハーパーと似た立場に立たされたようなもん。
それはこの映画が、どのベクトル向いてるかは自分には曖昧なものの、嫌悪的なものを表現してきてると思えるから。
嫌悪にしろ憎悪にしろ、そういうものを投げかけて、問いかけて、そういうことをしているから、ただ単純に見た目や表現がグロテスクで嫌悪感がありますって言ったとしても、それは深層意識で自らに反射した影があるからであって、これを嫌悪するあなたには、これと同じようにして人を蔑み、傷つけ、苛む傾向があるのでしょう、って言われているような。
脅しじゃんね。まったく。
しかも映画は映画なんだから、自分が登場人物たちと言葉を交わせるわけもなく、アンサー映画が簡単に撮れるでもない。
窓の外で落っこちていく映画と目が合ってんだよな、これじゃ。
でもさ、ここまでは単純に起こった感情をただ文字にしただけで、実際のところこの映画でどうしたかったのかはよく分からないんだわ。
角度と立場を変えたらどうとでも解釈できそうだからね、そういう意味ではもしかしたらすごい映画なのかもしれない。好きじゃないけど。
そもそも最初にりんごかじり出すんだから宗教や神話ベースが敷いてあるかもしれなくて、そうするとそこの論理はまったく分からない。映画見るならその辺勉強が必要だよなあほんとは。
そういう知識があれば教会にあった気色悪い石像も何かしらのモチーフとして理解できるんだろうか。
宗教神話的なものを排してなんとか頑張って受け取ってみると、心底情けない男の話にも思えるし、部分的な経験や感情から全体をカテゴライズして苦しむ女の話にも思える。
ターミネーターのごとく車のライトを受けて登場した全裸の人型が両性具有だったっぽいのを思うと、そんな性別がどうとか何とかじゃなくて、もっと普遍で多方向的に主張と皮肉な斬り合いしたかったんかなとも思える。まあ分からんけど。
他にもめちゃくちゃ意味ありげだけどよく分からんことはいっぱいある。
お面みたいな小道具が意味もなく選ばれるわけないんだから、じゃああれがマリリン・モンローっぽいのはやっぱりその生涯がとかですかとか。ハーパーはハーパーで田舎バカにしてませんかとか。そういえば逆子の話してましたねとか。テレビ通話してた友人が最後に登場したけどわざわざ妊婦なのは2人の人間関係にどんな影響を与えてるんですかとか。その妊婦が夜中に3〜4時間も車かっ飛ばしてくるのに本当に1人で良いんですかとか。
その場その場の感情を起こすための演出手法はあるにしてもこういう映画じゃね、場当たり的なものはあんまりなさそうだし。
それにしてもその最後の全裸の人型がどんどん脱皮のごとく次から次に新しく生まれて、そのくせ同じやつっぽくて、一瞬ハーパー混ざってた気がするけど血みどろだったので分からん。そんなの見てたらさ、俺生まれ変わるからって言ってまとわりつくくせに何にも変わらないしょうもない男って、女々しいだけじゃなくて分かりやすく視覚化するとこうなるのかって妙に感心。
とか考えたら頭の中で突然ゴールデンボンバーが踊り出すんだからそれには救われたね。
