すがり

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのすがりのネタバレレビュー・内容・結末

2.3

このレビューはネタバレを含みます

最初はすごい映画だと思ったんです。
だから劇場まで行ったわけなんですよ。
だって現実に亡くなってしまった俳優を、代役を立てるでもなく映画世界に反映させて一本作るって言うんだから。
誰々に捧ぐって映画は数あれど、初めからそれを目的にしてしかもそれが物語の主軸になってる映画はそうそうないでしょ。
すごい映画だと思ったんです。

それが蓋を開けてみればこれだ。
正直ちょっとショック。
自分から見たMCUの嫌なところ、あるいは映画というかハリウッドというか、その嫌なとこが出ちゃってるんだこの映画。
それでいて3時間近いし。

全体通して物語を終えたとき、主人公はシュリで、彼女の成長譚にも思える。
王としても身内としても大きな存在を失い、気づけば母も失い、悲しみと責務に打ちひしがれながらもヒーローとして立ち上がる。復讐心にケリをつけて戦いの日々よりも国や民を守ることを選んだ。良いじゃないですか、一見は。

王の喪失は仕方のないこと、でも母はどうして失った。
くるぶしパタパタ男が攻めてきたから?
それもあるでしょう。
ではなぜ攻めてきた。
民が殺されたからでしょう。
なぜそんな事態になった。
オコエの優しさと驕りが発動して、しかもシュリがはしゃいだ結果捕まったからでしょう。
自分たちに選択権があったところをどんどん悪い方に、こいつらまったくもう。
実際にくるぶしパタパタして攻めてきた時だってどうして母の側にシュリは居なかったんだ。
「(女王ではなくて)母からの電話を切っただけ」とか言って先走ったからでしょう。
なんなんシュリちゃん。反抗期なの?
そうなんです。彼女、めちゃめちゃ子どもなんです。
エムバクにも言われてたし、まあ年齢的にもそうなのかもしれない。
でもあの王や環境とともにあって幼稚すぎた気はする。

それでも彼女は葛藤して成長して。成長して?
葛藤の描写にもあまり納得いってないけど、それを乗り越えた先の成長なんてどこにあったんだ。
復讐心を抑えてくるぶし羽男を殺さなかったところか?服を燃やしてたのはその後だしさ。
もうさ、やめようよ。辟易だよ。殺す殺さない復讐するしないでキャラクター押し進めてさ、目の前でやっぱりやめる!って。
殺してほしいわけでもない。見せ方の問題。
その瞬間やっぱりやめるに至るのを納得するだけの描写をそれ以前に入れておいてって話。ダァーっとそれまでの映像流したりするんじゃなくてさ。その瞬間に至る前までにこっちにシュリ…やめろ…やめろ…って心底思わせるだけの感情移入を促してって話。

ブラックパンサー復活して最後の戦いが始まってからもそうじゃん。
母を失った悲しみと怒りに任せてタロカンと羽男に戦争を仕掛け返してるわけなのに、一体どれだけ犠牲者だせば気が済むわけ。
シュリが自分で作ってた新型のスーツだってさ、最初っから出せよ。AIに死傷者多数ですとか報告されてからしたり顔で出すのおかしいでしょ。
人が、民が死んでんだぞ。
これはシュリっていうより演出の話だろうけど、おかしいでしょ。MCUお前らエイジオブウルトロンで何を学んできたんだよ。戦争は終わったーって言って国に帰って大団円にならないんだよ。うちの子が帰って来ないんですうちの子を知りませんかってやってるご家庭が存在しちゃうじゃねえか。
こういうヒロイズムはアベンジャーズの流れでそれこそ葛藤して乗り越えて来たんじゃないのかよ。コラテラルダメージとは言うけどこんなうきうきしながらやって良いのかよ。
女王の弔い合戦だから仕方ない、うちの子も国のために死ねて本望だろうさを今やる気なの?正気か?

別に自分も普段映画みながら全てでそんなこと気にしてるわけじゃない。ジェイソンボーンが自分のことを知りたいってだけで各国の警察官殉職させてても大して気にならない。
それはボーンがかっこいいし、映画っていうファンタジーだからよ。
ジャンルじゃなくて映画っていう創作、その意味でファンタジーだから気にならない。
今回は違う。
現実に亡くなった俳優への追悼の意識は高いし、世界や映画が抱える人間的な問題色々を盛り込んだり風刺したりで今までもやってきてるんでしょうが。
あの場面でしたり顔で出てくる新型スーツにうおおおおおお!!ってして良いのは完全なファンタジーとして激アツ展開をこつこつ積み重ねて来た映画だけでしょう。
現実織り交ぜて終始お葬式のムードで人の死に向き合いながら、一方で白人が鎖に繋がれてるフフッとかやってるこの映画じゃないでしょう。
民を巻き込まず、ブラックパンサーと新型スーツ、くるぶしパタパタ男とその側近の3vs3でその辺の海岸で殴りあって、その結果復讐は終わり、一旦の終戦になったのなら納得もできたよ。そこに犠牲者はないから。

だから、物語のそれぞれのシーンでやりたいことが独立してて、辻褄が噛み合ってない感覚がすごく強い。あるいは噛み合いは良いけど錆びてて歯車が動いてない感覚。
話の流れにずーっと違和感があるから、それぞれずっと気持ちが入らない。
ちょっとコメディ風な緩急でジョーク入れてきても寒いし、ああいうカーチェイスしたいだけのカーチェイスで長くなるのは個人的に苦手だし、マッチポンプとまでは言わないけど展開のさせ方にそんな風な意図が見え隠れする気がしてとても残念。

最後は最後で非常にラフな格好でしかも一人でハイチの「帰る場所」へ赴く。王女でもない、ブラックパンサーでもない、等身大の私として一人、家族を悼む。

ケータイ小説かよ。

もうほんと今回のシュリにはかつて使い古された悪い意味での「等身大の私」が常にある。
いや良いよ、これがヴィブラニウム探知機を作った天才に会うためにシュリが学校に通うスクール系青春物語だったなら良い。
シュリが身分を隠して学校に通ってヴィブラニウム探知機と開発者に接触しながら、他方で女王やオコエが羽男や各国との政治的軍事的争いを演じる二画面的な展開だったら良いけどね。
あくまで国を率いる長としての成長が入ってるんだから、等身大の私だけではその責務は担いきれないのよ。そんなんだからお母さん出てこなくて見捨てられたとか駄々こねるし、何があったのか話さないし心開かない。
そんなやつに率いられて戦いに身は投じたくない。だからシュリにはついていけない。

その点でオコエも不思議なんだよな。
あれだけ女王にめちゃくちゃ怒られて、その上で女王亡くなってしまってものすごい悲しみや無力感、絶望があったはず。
それなのにしれーっとシュリと一緒に戦ってるし。それ自体は自然なことだけど、自分のせいでシュリがさらわれ、役職を追われ、そのせいで女王を守ることもできなかった、のにあんなに普通に戻れるものだろうか。
女王には許さないって言われてるしそのままでしょ?
シュリなりに全力で説得してもらって一旦の許しを与えてもらってから出撃してほしかったし、そこにこそそれなりの尺を割いてほしかった。
女王の代わりにシュリが許すならシュリの成長としても納得できる部分はあったように思う。
結局はオコエもシュリがさらわれたのは私が守れなかったからではなく、お前が存在したせいだと言わんばかりの、他責にフォーカスした復讐心に支配されてるようにしか見えない。

女王はね、その中で言えば女王はわりと好き。
言動も大体一貫してた気がするし。女王として母としていくらでも軍事介入するからかかってこいよ感があったのも良かった。
羽男が出てくる湖のシーンなんてライオンキング だもんな。あの瞬間は母としてだけでなくてライオンキング 的な父性すら感じられるのがなんというか温かかったわ。
だから残念。あんな死に方をして。

いやあの窓ガラスどうなってんだ。
ヒビ入ってたとはいえ、たんぽぽの綿毛よりも無数に放ったくせに船一隻沈められない程度の水爆弾で割れるなんて。ヴィブラニウムの槍は耐えたじゃんね、悔しいよ…。
しかも水の重さで割れちゃうガラスを床に使うなよ。ワカンダはテクノロジーの使い所間違ってるんじゃないか。ヴィブラニウムの槍の一撃に耐えられるガラスならあの程度の水に耐えられないわけないだろ!
そもそもシュリの作ってた新型スーツなんなんだよ!ダサすぎるよ!デザインもどっかで見たことあるような既視感強すぎてもやもやが怒涛でノンストップだよ!
天才少女が最後に使ってたスーツもなんなんだよ!デザインどうなってんだよ!
ダサいけどなんかバーチャロンとかヴァニーナイツみたいで親近感ある。
って思ってたら横の人が「メダロットじゃん…」って呟くから吹き出すところだったわ。たしかに。

シュリのブラックパンサーもさ、なんて言うか細すぎたよね。スタイルが良いといえばそうなんだけど、もう少し獣的な迫力を感じたかった。
少女味が強くてあんまり守護者っぽく思えなかったのは前ブラックパンサーが好きなせいだけで良いんだろうか。
パンサーっていうかキャットだったもん。
いやネコ科だからとかじゃなくて。
コスプレ感というのか、ただかわいいだけで鬼気迫るような威圧感はなかったもんな。

でもワカンダの衣装は豊富ですごく良かったね。
オコエのおしゃれ感凄まじかったし。何着てても綺麗でかっこよかった。
天才少女と接触しに行くときの、赤い装束にバニーのジャケットみたいの羽織ってるやつ。あれで成り立ってるように見えるのめちゃめちゃ不思議なんだけど、成り立ってるんだから。
すがり

すがり