ゴトウ

MEN 同じ顔の男たちのゴトウのレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.0
前半のじめっとした不気味さから後半の怒涛の血まみれ中年男性ラッシュまでとにかく気持ち悪かった。個人的なトラウマに基づく男性不信の話と思えばいいのだろうけれど、シスヘテロ男性としては居心地の悪さを感じもした。生きているだけであんな感じに思われちゃう可能性があるのかしら……。クライマックスは『GANTZ』のぬらりひょんが次々変身したり自分のはらわたをぶちまけたりして見せるところを思い出し、単純に生命軽視(宮崎駿か)っぽく感じもした。

折れた足首、裂けた左手、死んだ夫のトラウマが色濃いのは間違いないのだろうが、それによって周りの男性も信頼できなくなっているのか、あるいは男性自体を(というのが大きすぎるなら「有害な男性性」とか?)非難しているのか?キモい絵面が続く中で、司祭がねじ曲がった性欲を向けてくるのが違う角度の気持ち悪さで刺さった。あとは保守的な価値観が女性蔑視を内包している(「確かに女を殴るのは悪いがそんなに怒ることか?」のくだりとか)ことへの非難や、子どもから向けられる性欲の気持ち悪さとかはうんうんキモいキモい!と思って観ていたのだけれど、ジェフリーが「優しくて親切でも実際は気持ち悪いんだ!」と同じ穴のムジナっぽくなってしまったのが悲しかった。

タンポポの綿毛、お腹の大きい友だち、おじさんからおじさん…と、繁殖や再生産の話をしているのだろうし、どこまでいっても有害な男性性が再生産され続けるという話なのかしらね。苦しめられる方か、あるいは他者を苦しめて自分も苦しむ方かになってしまうのであれば、子を持たない選択をしたいと考えるのも自然かもしれない。何度も何度も出てくるリンゴ、禁断の果実は自由恋愛のことなのか、子をこの世に生み出すことなのか。友人とのメールのやりとりが突然男から浴びせられる罵倒に変わるくだり、突然人が消えるくだりなど、追い詰められたハーパーが見ている幻なのかな?と思っていたのだけれど、朝になって村にたどり着いた友人が壊れた車や血痕を目撃しているので現実だったのか?と最後に混乱させられた。錯乱して人殺しをしてしまっていたみたいな話とも取れるので、エンドロールを観ながらモヤモヤしてしまう。ただ、男はクソ!と突き放しているとは言い切れない部分もあったのも確かで、出産が連続する場面ではハーパーは彼らを攻撃したりはせず、ただドン引きした顔で背中を向ける。俺は死ぬぞ!と脅してくる最低夫が「愛が欲しい」と言うのも、否定するでもなく聞いていた(それに応えるとは思えないが)。じゃあその「愛」って何か聞かれても答えられないよな……。

トンネルの中で反響する声、教会で叫ぶハーパーの声などなど、劇伴と連動する声の表現も印象的。「有害な男性性」ものとしては絵面のエグさが勝ってしまって、キワモノホラーとしてしか受け取られないんじゃないか?という気はしたけれど、じめっとした村の雰囲気や突然現れる全裸男など、序盤の静かなホラーの方は見応えがあり、あの雰囲気のまま最後まで観たかったような気もした。
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