ゴトウ

マッチ工場の少女のゴトウのレビュー・感想・評価

マッチ工場の少女(1990年製作の映画)
3.5
誰かから大切にされていると感じられないから、自分で自分も大切にできない。仕事(行きたいとか行きたくないという次元にない)に行っては帰ってきて、映画観て泣いてるイリス、イヤでも自分に引き寄せて観ざるを得ない。誰にも選ばれないから、自分が選んだ人を狙うのだけれど、本当はその人たちから愛を受けたかった……。大量生産され、こぼれ落ちていくのも無視されるマッチと、合間に空々しく流れるロックンロール。どこまでも労働者の映画を撮る人だ……。

プレゼントを渡されて「愛されている」と思えたら良いけど、全然欲しくないものを渡してくる母親はやっぱり自分本位のように見える。召し使いのように扱われ、搾取されるイリスは外の世界に自分を救ってくれる恋人を求めるが、そこでも弄ばれて搾取されてしまう。自分に価値がないと感じるからこそ誰かに幸せにしてもらおう、受け入れてもらおうという考えになってしまうのは浅はかかもしれないけれど、かといって非難する気にもなれない。

金がないから苦しいし、金があるやつに食い物にされてしまうのも残酷。合間に挟まれる教皇の歴訪と天安門事件のニュースからは、信仰にも革命にも絶望してしまっているような冷たさも感じる。工場はイリスがいなくなっても全く問題なく回っていくだろう。一通りやりとりが終わって人物がはけた後も同じ場所を写し続けるカメラが印象的で、これもまたやるせなさ、無力感を強調しているように見えた。誰にも誘われずに自分だけが一人で座っているのに、曲は止まらないしみんなは踊っている。気恥ずかしさと腹立たしさ。
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