ゴトウ

こちらあみ子のゴトウのレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
3.5
うわあ。これは厳しい。ケアの問題、特に家庭内においては、誰かが我慢することになるとどこかでぶち壊れてしまうみたいな実例は(最も悲惨な形で)報道などで耳に入ることも多い。悪気はないし、こういう風にしか生きられないあみ子はしかし、生きているだけで周りの人を傷つけたり、逆に傷つけられたりして孤立していく。どこにも繋がらないトランシーバー、冒頭から最後まで立ち込める死の匂い。

長回しで目を覆いたくなるようなやりとりが繰り返されたり、あみ子の声がキンキン耳に障ったり、とにかく息苦しい。周りの人たちとは違う見え方で世界を見ているであろうあみ子も、次第に孤立して弱っていく。家族も友人もあみ子を見捨てていくとも、限界が来て潰れていっているとも見える。そういう張り詰めた雰囲気の中で、無責任な優しさをあみ子に見せてくれる坊主頭の同級生の場面で泣いてしまった。いずれ離れていくし、きっと忘れていくのだろうけれど、仮に気まぐれでもああした優しさにもう少しあみ子が触れられていれば……。しかしあみ子の周囲、特に母親の気持ちを思うとまた苦しくなる。兄がグレたのは大いにあみ子の不用意な言動のせいという面もあるだろうが、しかしその兄の存在が間接的にあみ子を守ってもいたというのも皮肉だし、家庭や学校に(ゆくゆくは労働に?)馴染めない、求められる役割を演じることができない人の人生はどこまでも苦しいことばかりのように思える。「いつか殴られそう」という予感だけがあり、最悪の形でそれが現れる場面は胸が痛くて見ていられない。それでもクライマックス、彼岸の世界からの手招きに対して手を振って別れ、こちらに向かって(カメラの方に、そして観ている我々の方に)あみ子は答える。果たしてこれは明るい結末なのだろうか。

どう考えても発達障害(ないしは「非定型発達」とか?)であろうあみ子の物語に対し、「子どもの頃には持っていた純粋さ」「誰もがかつてはこうだった」みたいな宣伝文句がつけられていたことで非難されていた(それだけではないとは思うが)ようですが、『PERFECT DAYS』の「こんな風に生きていけたら」みたいなことなのかな。宣伝文句によって作品の内容がジャッジされてしまうのはもったいないとは思うけれど、ポスターや予告編で「ハートフルな感動巨編!」と言われていたら「ハートフルな感動巨編」と思って観てしまうのも人情だよな……まして、発達障害当事者が抱える生きづらさや就学・就労の困難さを鑑みれば、エンタメの調味料みたいに消費されたらたまったもんじゃないよね。邦画ダサポスターあるある・ブロッコリーポスターもだけど、軽薄なプロモーションは百害あって一利なしでしょうね。青葉市子の劇伴は素晴らしかったけれど、エンドロールで流れる主題歌はあまりにも本編が重すぎて、それを漂白しているようにも感じてしまった。
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