むぅ

私のはなし 部落のはなしのむぅのレビュー・感想・評価

私のはなし 部落のはなし(2022年製作の映画)
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「なんか変なの」

小学生の頃ぼんやり思った。
私の地元にはいくつかの団地があり、どの団地に住んでいるかでその世帯年収があらかた想像がついてしまう現実がある。
小学生でさえ△団地は◯団地よりもお金持ちと何となくわかっている。
ずっとその地域に住んでいたら考えもしなかったのかもしれないが、小1で転校し小5で同じ学校に戻って来た私としては何だか違和感があった。
私の知る限りではそれを理由にしたいじめや差別は無かった。
でもうっすらとした線引きがあったように思う。
いや、あった。少なくとも私の中にはあったことを認めなくては。
でもそれって差別と何が違うのだろう。

住んでいる場所によって、パーソナルな部分やルーツを勝手に判断されてしまう事って。
ましてやそれで差別されるなんて。

〈部落〉がそうであるように。

日本を代表すると言われる監督の作品を観たり、小学生ぶりくらいに大河ドラマを観ている中、実は私って自分の国のこと全然知らないんじゃないかなと思うようになった。

学びになればと思いながら、ヒントになりそうな、考えるきっかけをもらえそうないくつかの作品を観てきた。でも、どれも自分の中で明確な答えがまだ出ない。
レビューに書きたい事がたくさんあるような、何を書いていいのか分からないような、どこまで書いていいのかもわからないような、そんな気になり、書くのをいつも見送る。

私だって仕事終わりの帰りの電車、Filmarksを開いてクスッと笑えたり、面白そう!と思ったり、いいないいな私も観たい!と思えるようなレビューに出会えたら嬉しいし楽しい。なので、とりあえずはレビューは書かず自分の中で向き合うことにしようと思っていた。
そんな中の今作。
上映館もMark数も少ないし、いつか配信されるのかな?
きっとまとまらないけど、書いてみるかと思った。

『私のはなし 部落のはなし』

とても良いタイトル。
"私は"という主語でしか語れない、その主語でしか語ってはいけない根深さや繊細さが、そこにはあった。
たくさんの方々の〈私のはなし 部落のはなし〉を観て聴き考える。
そこには監督の話もあった。
だからこんなドキュメンタリーが出来たのか、と納得する。


〈私のはなし 部落のはなし〉
私にとって部落は身近ではない。
でも知らないだけで、辛い現実と戦っていた人が身近にいたのかもしれない。
それでも授業で習った〈士農工商、穢多非人、部落〉という言葉は忘れられない。それこそ〈"いいくに"つくろう鎌倉幕府〉や〈"なくよ"うぐいす平安京〉と同じくらいに記憶に刻まれている。
それはきっと、私が転校経験が多いことと関係していると、ちょっと思う。
引っ越した先で、その地域に多い苗字があるという事を知ったり、転校先で出来た"新しいお友達のお家に遊びに行く"という経験が人より多い中、住んでいる場所によって"そこの雰囲気がある"という体感があったのは無関係ではないはず。
本が好きなのも間違いなく影響している。島崎藤村や中上健次は今作にも引用されていた。それでなくったって昔の小説には"身分の差"というのは当たり前に出てくる。
そして恐れずに言うならば〈部落〉よりも〈同和〉という言葉の方が、なんだか容易に触れてはいけない"ややこしさ"みたいなものを感じる。今作はそこに関しても語られているのだから凄い。
部落の問題に直面した事はなく、かと言って全く知識や実感がないわけでもない。
おそらく私は部落とそんな距離にいるのだ。そしてその距離を持て余していたのかもしれない。
だから絶対に今作を観たかった。
これが私の〈私のはなし 部落のはなし〉


「ルーツのない人たちの中から差別をなくそうとする人たちに出てきてもらうことが、あるべき姿かなと僕は思っている」
そう語る方の言葉に驚いた。
ルーツのない側が差別をしているのだから、差別をしている側が改めるべきなのだ。どうして辛い思いや経験のある人たちが、また辛い思いを重ねなくてはいけないのか。優しさなのかオブラートなのかはわからない。でもおそらくその両方に包まれたその言葉が悲しかった。

パンフレットも素晴らしかった。
帰りの電車で読もうと開いて、閉じた。これ、読んだらきっと引っ張られて〈私のはなし 部落のはなし〉は書けなくなる。間違いなく"コピペ"になる。
知識でもなく、誰かの意見でもなく〈私のはなし 部落のはなし〉を、私は書きたいと思った。
そう思わせてくれる傑作だった。

明日ゆっくりパンフレットを読む。

もうすぐ成人する3人が、それぞれの〈私のはなし 部落のはなし〉をした後に対話をする。そしてブルーハーツの「青空」を歌う。
涙が止まらなかった。

明日ゆっくり「青空」を聴く。


生まれた所や皮膚や目の色で
いったいこの僕の
何がわかると言うのだろう

こんなはずじゃなかっただろ?
歴史が僕を問いつめる
まぶしいほど青い空の真下で
むぅ

むぅ