Taka

さかなのこのTakaのレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.4
のんがさかなクンを演じる。少しだけの「?」と妙な納得感が観る前の自分にはあった。確かにのん(能年玲奈)の出世作といえば「あまちゃん」であり、そこでもさかなクンと「見つけてこわそう」をやっていたので色々とシンパシーを感じてはいたので大丈夫だとは思った。しかし、言ってしまえば女性が男性を演じるわけで物語を進めることは出来るのかと思ったが、映画はこんな一文から始まる。「男か女か、どっちでもいい」。

もう映画が始まる前に堂々と宣言してみせたのだ。観客の固定観念を信じてこの映画を観ては負けなのだと。そして、そんな固定観念、普通というものよりも魚という自らの好きなものを信じて生きてきたさかなクンの半生は家族や同級生ら周囲の人々を動かすドラマであり、物語を観終えたときには多幸感が包み込む。そして、その多幸感、好きという自分を信じる力こそが今の時代を動かす力なのだと。

多様性という言葉を響かせるには多様性という言葉の意識を無くさせるまでの皆がそれぞれを信じる力なのだとずっと考えているが、映画はわざわざそんなメッセージを発しなくても固定観念や普通に縛られる人もそうでない人もそれぞれを自然と肯定し、観客に気持ちよく映画館から出ることが出来る本作を観れたことは幸せだと思う。

そして、何よりもさかなクン(ミー坊)を演じてみせたのんの演技だからこそ出来たキャラ像は「あまちゃん」、「この世界の片隅に」につづく新たな代表作として今後のキャリアで語り継がれることは間違いないだろうし、沖田修一監督の見事な演出力もあり、2022年の邦画ベストの一本にしたい良作が誕生した。
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