けめこ

映画刀剣乱舞-黎明-のけめこのネタバレレビュー・内容・結末

映画刀剣乱舞-黎明-(2023年製作の映画)
2.3

このレビューはネタバレを含みます

黎明ってそういうこと…!「全ての人間が審神者となる可能性がある」!!
おそらくあの事件の前までは、2205年時点でも、もともと審神者の素質を持つものだけが審神者になれるのだと思われてたのかもしれない。それか特に素質がなくても2205年の時の政府の技術でなんとかなってたか。
それが、この事件があったからか!!と、いわば未来から見れば答え合わせになったのでは。この時代であの事件に遭遇した人々が、刀剣男士への思いを持った。渋谷だけでなく全国各地で刀剣男士との接触があり、記憶は後に時の政府によって消されたけど思いはきっと残った。その思いが受け継がれた結果、2205年時点で審神者となれる人間がたくさんいて、時の政府は今のこのスタイル…「たくさんの本丸それぞれに戦ってもらう」にたどり着いたのではないかと。


平安時代も現代も民の暮らしのエグさが辛辣だけど、その分好きだ…ってなった。こういう部分を正義感で断罪するでも過度に寄り添うでもなく、ただ事実としてあってしまうものとして描く手付きは信頼できる。
歴史から消された、っていうテーマのとき、自分が必ず思うのが、「消されたという事実が歴史に記されて残ってるなら、結果的にそれは歴史に名を残したと言えるじゃん?消されてないじゃん?」ってことで。(なので葵咲はん?となり、パライソは無名のままでよかったはずの名もなき民が、死を数え上げる一人一人として歴史に刻まれなければならねばならないことに慄いた)
だから今回の酒呑童子の話も、予告の情報だけでは、単に討伐された恨みでそこまで祟るのか~とのんきに思っていた。
それがこれですよ。ちょっとパライソに近いけど、「名もなき民として今日を生きていられればそれでよかったのに、勝手に鬼と名付けられて、望まない形で歴史に引きずり出された上に汚名を着せられて殺される」。政治のエグみがすごい。でも全ての人に基本的人権がとかっていう時代じゃないから、都合の悪い集団をそうやって消すこともまた政治だったのだろうな…。それは千年後に祟りますわ…。

そして伊吹はもう完全に被害者でしょうこれは…。あの呪いのせいであんな境遇でこの時代にあの顔で生まれさせられて(と自分は解釈した)。そして、本来は記録が多すぎて改変困難なはずの時代を改変するという時間遡行軍側の大規模作戦を成功させるために利用されて。タケルくんは死んじゃったのに、あのヒトガタを与えられて、コレがタケルだ、でも心が壊れているから人から思いを奪え、ってけしかけられて。それは現代の人々に記録を残させないための遡行軍側の手段でしかなくて、遡行軍側はタケルくんなんてどうでもいいんだろうけど、そんなことも知らずに必死になって…。つらい。つらいけど物語としては好き。あまりに必死な伊吹が切なすぎて、これは琴音ちゃんも斬らないでと言いたくなる。
タケルくんが一人で出て行っちゃう直前、伊吹が一人で荒れてる場面があったけど、あれ原因はなんだったんだろう。家のせいでやりたいことが阻まれたとか?あるいは自分に対するどうしようもない不甲斐なさ?何にせよおそらく、弟がそこにいるのも忘れて自分のことで頭がいっぱいになっていたんだろう。それではっと気づいたら弟があんなんなってたら、それは責任感じちゃうよなあ…。そういう伊吹の弟を思う気持ちとか責任感とかが際立つからこそ、時間遡行軍そこにつけ込むとは卑劣な!ってなるし、逆に時間遡行軍のやり口が汚いほどに伊吹の根の人の良さも際立つ。

まあ、琴音と伊吹の対話はやや間延びした感がありましたよねやっぱり…。これを見て自分は、小説仮面ライダー鎧武を思い出したんですが(今作と同じく鋼屋ジンさん)。精神世界での対話で主人公が正気を取り戻して戻ってくるんですが。小説で読むと冗長なやり取りもこれこれこの中二感溢れるラノベ調!って楽しめるんだけど、映像だとちょっと重かった。
ここの解釈を書いてくれた感想も目にしたんだけど、自分にはフィットしなかった。自分は大事な人の死を乗り越えて前に進むには、前向きな諦め…といっても全てを投げ出すわけではなくしっかりとその事実を受け止め歯を食いしばって生きる強さ、その上で亡くなった人を思い続ける強さが必要だと思ってて(仮面ライダーウィザードを見てくれ)、あなたの中の弟さんを鬼にしていいの?は自分の好みのパターンとは違ったのであまりピンと来なかった。あの会話では確かに、世界を滅ぼすのはやめようかな…ってなってくれるかもしれないけど、肝心の「タケルの死の受容、それができる心の強さの獲得」には繋がらないな、話がズレてるなと思ってしまった。
もう散々言われ尽くしてるけど、めちゃくちゃ仮面ライダー冬映画(ヒーロー集合しがちな方)なので、ここまで来たら、説得及ばず刀剣男士vs鬼で激アツバトル!→最後に伊吹本人だけ分離して救出、とかでもよかったんじゃないか?そこでまんばちゃんが、呪いに操られていた部分があるとはいえ、仮の主従であることが生きる、とか…。
琴音の会話の肝は「自分はモノの声を聞いた、だからあなたもあなたの中の弟さんの声を聞いて」だと思ってて、弟さんはそんなこと望んでない!ってよりは、要は「伊吹自身が記憶の中の弟から聞こえる声として何を聞いたことにするのか」、弟の意志ではなく伊吹自身の解釈の方を問うているわけだけど。でも、伊吹にしてみれば、そもそもこんな境遇に自分と弟を生まれさせたこの世と千年前の呪いを恨んでいるわけだから、そんなん弟の声を自分の解釈で捻じ曲げてでもこの世を滅ぼしてやるううう!!!ってなっちゃっててもおかしくないと思ったし、むしろそれくらい悪役としては突き抜けててほしかった。わりと恵まれた方の生活をしてるであろう琴音の説得ごときでは晴らされない恨みを抱えていると思っていたので。というかもう個人的願望として、あんな説得で納得してほしくなかった…。序盤の名もなき民を虐殺するエグみも台無しだし。

自分の刀剣乱舞沼の始まりが刀剣乱舞継承からの刀ステで、迷っても悲しくてもつらくても何が何でも、歯を食いしばって戦い続け、全てを"歴史"(≠事実)どおりにしなければならない、その歴史は変えることができないのならばいっそ誇って愛してしまえ、というのが好きで。だからシンプルに現代が崩壊する!やばい!は刀剣乱舞というよりニチアサの文脈だなって感じた。とりあえず画の力!ヒーロー大集合!ってやつ。

映像、殺陣、そしてあの大集合で全部許しました。キャストはほぼステだけど、きっと別個体でいろんな本丸から送り出されてきたんですよね。彼はミュ本丸から来たで確定だと思ってる。
いやね、オープニングでやたらシルエット映るな~无伝のトルソーかな?と思って、でも鶴丸が二振りいる気がしてて!!!たぶん幻覚じゃなかったと思う!!!
そして倶利伽羅江くんがいちばんアツかった、、、、、あれ、あの、おそらく倉橋さんの子孫?の継承本丸から!!!!元気に刀剣男士してた良かった!!!!
細かいところでは、堀川の殺陣で街灯駆け上がって予想外の方向から宙返りして出てきたのがすごかった。あといち兄の太刀らしくない突き多用の洋風?の殺陣が好き。
まあ…映画情報解禁当時の「堀川はまんばちゃんをなんとかしてくれる要員なのかも!?頼むぞ兄弟!!」って期待は見事に外れましたが…。

刀剣男士同士の絡み、個々の刀剣男士の動きやストーリーが薄かった…。刀剣男士同士の物語なんて各メディアミックスで散々やってるから、仮の主との関係性+琴音や伊吹という刀剣男士以外のキャラでのメインストーリー、って方に振ってみたのかもだけど、オタクは!!!刀剣男士同士の物語なんてなんぼあってもええんですよ!!!飽きることなんてない!!!ほぼステキャストとはいえ毎回違う編成だから初顔合わせもかなりいたし、そことそこが一緒にいたらどういう会話すんの!?ってのはなんぼでも見たいんですわ!!!
あと正史を守ることとの葛藤もね、こちらはもうええわ同じことばっかしんどいわ、って人もいるかもしれないけど、刀それぞれの持つ物語も違えばそれぞれ過ごしている本丸も違うわけで、つまり全ての刀剣男士それぞれにそれぞれ違う形の葛藤、心の動き、乗り越え方というのがあるわけで!!!そんなんなんぼでもバリエーション作れるし永遠に見たいわ!!!
刀剣男士がモノに徹していて人間たちの物語、という解釈も見かけたのですが、俺は!!!"モノなのに人のようになってしまった"刀の物語が好きなので!!!刀剣男士を!見せてくれ!!!

書いてるうちに思いつきましたが、ヒーローアクション映画としては画面はとても良いんだけど、これが刀剣乱舞である必要性はあったか?刀剣乱舞でやるべきストーリーだったか?というとちょっと疑問符、なのかなと。
過去と現在で悪い奴らが可哀想な人を唆したせいで世界が崩壊する!だと、それこそ仮面ライダーでも同じストーリーやれちゃう気がして。もっと時間を巡る物語、過去や未来との因果、歴史と向き合う刀剣男士を見たかった。記録を歴史に残させない云々が辛うじてその要素かな。
どうせ冬映画式に大集合するなら、複数の時代での出来事が最終的に2012に集約されて…!とか見たかったなあ。まあ複数の時代の画を撮るのは大変でしょうけど…。995と2012の2地点だけじゃ物足りないよぅ。

刀剣男士は既存キャストはみんな良かったのはもちろんとして、新キャストの源氏も良かったです…!ミュ個体も好きだけど、わりと脳筋が前に出ていながらもだからこそどっしりヒーロー然として決めるとき決める髭切と、兄者大好きは変わらずにクールさとキレが増した膝丸。極ということもありミュ個体の可愛らしさを削いで個々の特徴をより強く出した感じ。仮面ライダースペクターの山本涼介くんの膝丸…良かった…!仮面ライダー時代も脚長くてレザーパンツが激映えだったのですが、今回もそのスタイルとその身体から繰り出される殺陣を堪能しました…。

2回目は迷ってます。あの大集合を見たいけど、初見の衝撃以上のものは得られない気がして。4DXは苦手だし…あと関連書籍もどうしようかな…。小説はあの間延びが逆に良いかもだから買おうかな(笑)
けめこ

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