けめこ

シン・仮面ライダーのけめこのネタバレレビュー・内容・結末

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

仮面ライダーの何が好きかって、「これは自分の戦いだから自分がやるしかない」ってところだわ…というのを強く再確認した。
今回、オーグたちはニチアサTVシリーズのように、街で暴れてる!みたいな感じはない。それぞれの理想世界のために好き勝手やっているだけ。そこに仮面ライダーが戦いに出向くという、TVシリーズとは真逆の構成。ここがこのテーマをさらに際立たせてて良い。要は、誰かが襲われてるから守らなきゃ!とか、人々を守るために戦わなきゃ!じゃなくて、「自分たちの敵はこいつだと見定めているから潰す」という戦いのスタイル。大義のためではなく、ただ己の敵だから、この戦いが自分に課せられたものであるから戦う。
最初、その敵を選んでいくのはルリ子だったりヒゲ男たちだったりするけれど、最終的にイチローを倒すというのが本郷、一文字の意志として実行されるのもとても良い…。
やっぱりこれは、「力の出自は敵」というコンセプトによるところが大きい。これが仮面ライダーの核にあるからこそ、組織への恨みと責任と罪滅ぼしとその他いろんな感情を背負って戦う物語に、必然的になっていく。正義感でも誰かのためでもない、言ってしまえば「自分のため」に戦っている。この、己の戦いは己で向き合わなければならない、という葛藤にこそ勇気をもらえるから、ウルトラマンよりニチアサの方が好きなわけだけど、そのエッセンスがこれでもかとぎゅっと詰まってた。

まあ、情報機関の男が「憎まれるのも私の役割」と言ったのは、わかってるな、って感じがした。人間が科学の粋を集めていかに最強の改造人間を生み出したとて、地球外生命体の力には敵わないから。その強大すぎる力はヒーローとして都合よく感謝されることもあれば、嫌われ疎まれることもある。現にシンウルでは地球消されるところだったし。
あと「下着を選んだのは婦人警官だ俺は見ていない」もね、あの人と同一人物だと思うと、お前ちゃんと何がハラスメントになるか学んだな!人間社会に適応してきたな!という感じ(笑)

ショッカーも一枚岩ではなく、それぞれ好き勝手に幸せを定義して理想を掲げちゃってるところがめちゃくちゃ良かった…これもニチアサっぽさと言ってしまうと元も子もないんだけど、現代って絶対善も絶対悪もおそらく定義できないからこそ、TVシリーズもあれだけそれぞれの色が出ていると思っていて。だから、人工知能が最大多数の最大幸福を選ばず、人が何人病気にさせられようが操られようがそれが合理的幸せならオッケーですってなっちゃって、やばい奴のやばい思想を否定せずにわりと乗っかっちゃう方に転んだ結果として、それぞれのやばい人が、自分の思想こそ幸せだと信じて疑わずにやばいことやっちゃってます!という多様性?がとても良かった。KKオーグとか何してたか知らんけどただ自分の強さと先輩愛しか言ってなかったし。その生々しさ、人間くささが好き。
余談だけど、犠牲を出してでもそれが合理的幸せならオッケー、ってAIが判断しちゃうの、わかる気がする。人権…基本的生存権や人生の選択権を無視して、ただ合理性だけを考えたら、選民思想とか統制社会とかは確かに幸福へ導いてくれるだろう。でも人間はAIじゃない、機械じゃない。だから人類は「人権」という概念を作り出して、AIが判断する合理性とは逆を行き、非合理的ではあるけれど、最大多数の最大幸福をなるべく追求しているわけで。作中では人権が高らかに謳われるわけではなかったけど、「いくら合理的幸福だとしても、それは”人間として”判断したときにいけないことだ」というのは示唆されてた気がした。

そして何より、本郷がコミュ障ってのがめちゃくちゃ良い!!!何もかもが完璧人間だった初代本郷が令和にリファインされた姿としてこれはとても良い。
コミュ障でも、信頼は築ける。上手い言葉のひとつもかけられない本郷だけど、だからこそ己の葛藤に素直に向き合い、苦悩を隠さず(隠すほどの器用さもない)、ルリ子と共闘することができた。そしてそんな本郷が「人のことはわからないけど、わかるように自分を変えたい」とチョウオーグに言えるのが!!良い!!
コミュ障=人の言葉を読み取れなかったり上手く返すことができなかったりだから、嘘のない魂だけの世界に憧れてもおかしくない。でも本郷は、チョウオーグが掲げる理想に抗う。それは言葉を交わさなくても、いやむしろ、余計な言葉を交わさずただルリ子と共に過ごすだけで信頼を築いた、その経験があったからこそなんだと思う。すべてをさらけ出せばわかりやすくていいってもんじゃない、むしろ言葉にせずただ寄り添ったからこそ通じ合ったものもある。その経験が本郷を強くした。
力が欲しい理由も良い、無力に打ちのめされたというだけではなく、すでに幼少の経験から「力の使い方」というテーマに向き合っていた。仮面ライダーに選ばれた理由がありすぎる。

そして一文字のキャラがいい!昭和シリーズの明るいヒーロー像を踏襲して、軽妙で明るい、でも締めるところ締める!かっこいい!!昭和シリーズと全く同じではないけど、苦悩する系1号に明るい2号はやっぱり王道!!!そしてその2号が唯一見せる涙が洗脳解かれるときというのが…このシーンめちゃくちゃ良かった…

池松壮亮と柄本佑というキャスティングは、ヒーローが似合うというよりも、涙や悲しみが似合う俳優、という感じがした。本郷は感情がないんじゃなくて外に表れないだけなんだっていう、ちゃんと感情を作ってからそれを表出させないでいる芝居がすごい。本当は叫びまわりたいくらいの葛藤なのに、それをあの静かな戸惑いで魅せる。マスクを正規の手順でオフせずに脱ぐとそうなってるんだ!という画が衝撃的だったし、そのあとの無表情なのに雄弁な表情。ほとんど表情は動かないのに、葛藤、怒り、そしてそんな自分への悲しみが静かに深くそこにあるのがわかる。
そしていつも軽妙に振る舞う一文字がヒーローになるシーン!!ここのための柄本佑だ、と思った。個人的には、悲しみを受け入れてヒーローになるというのは、絶望に打ち克った者だけが仮面ライダーになれる仮面ライダーウィザードを思い出して胸が熱くなったというのもある。ずっと組織の洗脳で多幸感の中にいた一文字に一気に襲い掛かった悲しみとは、いったいどれほどのものだったのか。作中で語られず、その悲しみの一端すらも垣間見られないからこそ、その深さ大きさを想像するしかなくて、観客にすら共有されない悲しみを一文字はあの場面でたった一人で、自分だけの力で乗り越えたのだなあということがわかって…。

仮面ライダー0号はシャドームーンの意匠も入ってかつアクションもスタイリッシュと泥臭さの融合ですごい戦いだった。
で、最後!!!せっかくイチローが「ここは3人では狭すぎる」つって本郷とルリ子がそこに残れるようにしたのに、そのマスクは壊れてしまって。そして結局、新しいマスクで戦い続ける一文字と、そのマスクに意識が残った?一文字の心の中にいる?本郷の会話で終わるんかい!?!?なんかここ、別に欠点とか気に入らなかったとかじゃないんだけど、そっち行く!?!?ってなってしまった。本郷とルリ子のバディものだったのに、なんか戦い終えた男の友情みたいな感じに急にシフトしたね!?と思って。正直ここでびっくりしてしまって本編の記憶のかなりの部分がどっか行ったまである。

まあこれは再見したければ配信とかを待ちたいですね…いつものシンシリーズのテンポなので、映画館での体験はまずあのスケールとテンポに飲み込まれるだけで、じっくり鑑賞するなら自分のタイミングで停止や戻しができるツールじゃないと無理。セリフを全部聞かせる気がなさすぎるw
けめこ

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