B5版

別れる決心のB5版のレビュー・感想・評価

別れる決心(2022年製作の映画)
4.1
パクチャヌク監督曰く「私はずっとラブストーリーを常に描いてきた」らしい。
確かに純度が高い原液まま、故に毒々しいが美しい愛が監督作品の肝なのかも。

今作におけるそれは、心に寄り添った血塗れの手の暖かさ、慈愛と憐憫に矜恃が蹂躙されて尚頭から振り払えない姿、強烈な切なさと同居する心に棲む鬼のことである。

映像表現が滑稽にも思えるこの独特の持ち味に最初肩透かしをくらうものの、やがてくるくる過去と今が巡り始め観客たちは鏡迷宮の如き怪しさと緊張感の漂う唯一無二の物語に没入していく。

殺人の疑いをかけられる美しい女、その女を追う刑事という骨組みは『氷の微笑』を想起させたが、監督の描く女はその行動は似たものがありながら、ヴァーホーベンの自己第一主義の女の力強さとは全く違うな。
今作の彼女はメフィストファレスでもなく運命の女にもなれそうにない。
崩れ落ちそうな己の地面を必死で踏み締める生きる為に必死な弱者である。

崩壊する世界の行き止まりで二人だけにしかわからない秘密の合言葉。
言の葉では紡がれなかった存在を問いかける女。
行間のうちで生まれたもの、剥き出しでないゆえの眩しいほどの一途さ。
プラトニックなのに情動が激っているラブストーリーっていいですね。
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