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マッド・ハイジのkuuのレビュー・感想・評価

マッド・ハイジ(2022年製作の映画)
3.7
『マッド・ハイジ』
原題 Mad Heidi
映倫区分 R18+
製作年 2022年。上映時間 92分。
名作児童文学「アルプスの少女ハイジ」を大胆にアレンジし、R18+指定のエログロバイオレンス描写を満載にしたB級エクスプロイテーション映画に仕立てた異色のスイス映画。
キャスパー・バン・ディーンが独裁者マイリ、デビッド・スコフィールドが、アルムおんじことハイジの祖父を演じた。

チーズ製造会社のワンマン社長でスイス大統領でもある強欲なマイリは、自社製品以外のすべてのチーズを禁止する法律を制定し、スイス全土を掌握する恐怖の独裁者として君臨。
それから20年後、アルプスに暮らす年頃の女性ハイジは、禁制のヤギのチーズを闇で売りさばいていた恋人のペーターが見せしめのため目の前で処刑され、唯一の身寄りである祖父も山小屋ごと爆破されて殺されてしまう。
愛する者たちを失ったハイジは、復讐のために戦いに身を投じる。

今作品の背景にある物語は、映画そのものと以上に興味深い(云い過ぎ、書き過ぎかもしれないが)。
今作品プロジェクトは4年以上前、スイスのホラー/カルト映画ファンの狂気の夢として始まったそうだ。
その役割としては、スイス初のエクスプロイテーション・ムービー(金儲け映画、きわもの映画、観客から金を巻き上げる映画とも呼ばれ、興行利益を第一に考え、低予算で作られた安易で手軽に売上げへとつなげた作品を指す)作品を作ること。
挑戦ははじまったが資金はなかった。
しかし、熱意とエネルギーだけはあった。
その結果、おそらく史上最も印象的な一つのクラウドファンディング・キャンペーンが実現した。インターネットやさまざまなソーシャルメディア・チャンネルを通じて、『マッド・ハイジ』の宣伝はゆっくりと、しかし確実に広がっていった。
今作品の商品化(鳩時計も買える)や、まだ存在しない映画のDVD予約販売で資金が集まったそうだ。
キャンペーンは大成功を収め、映画は十分すぎるほどの予算で製作され、優れた特殊効果や、比較的有名なB級俳優、キャスパー・ヴァン・ディエンも参加した。
何でも世界19か国538人の映画ファンから約2億9000万円もの資金集したそうな。
しかし、コロナ禍がやってきた。
世の中のあらゆることがそうであるように、この『マッド・ハイジ』の公開は保留となり、キャスト、スタッフ、そして何千人もの共同出資者の忍耐力が大いに試された。
そしてついに鑑賞。

フタを開けたら、大量のスプラッターに、ひねくれたユーモア、頭の悪い登場人物、セルフ・パロディ、わざと間抜けな名言やキャッチフレーズ、そして、ノンストップのエネルギー。
映画のトーン、スタイル、内容に目新しさや革新性は正直しなかった。
世界的に有名な童話『ハイジ』(ヨハンナ・スピリ作、1881年)を映画の骨組みに使うというアイデアは斬新ではあるけど。
プロットは『イングロリアス・バスターズ』や『アイアン・スカイ』のような観客を喜ばせる映画に追従しはしてた。
脚本は『サウンド・オブ・ミュージック』から『レディ・スノウブラッド』まで、およそ30本の映画の宝物に敬意を表してた。
ストーリーはそれほど重要ではないが、教科書的な復讐スリラーの構造にきちんと沿っている。
主演のキャスパー・ヴァン・ディエンが、専制的で誇大妄想的なスイス大統領であり、同時にチーズの生産と輸出を唯一認可された会社のCEOである。
彼は遺伝子組み換えチーズで世界征服を企むが、アルプス出身の英雄的な少女は、恋人を殺され、愛する祖国を滅ぼされた復讐を果たそうと決意する。
今作品の面白さと仕掛けの中で、最も評価したのは、製作者たちがありとあらゆるスイスの決まり文句や国のシンボルを見事に映画に挿入したこと。
映画のロゴにはすでにマッターホルンとチーズボウルが描かれているし、その他にも、のどかな山道、アルプスの角、鳩時計、チーズフォンデュ、時計、ポケットナイフ、トブラローネ・チョコレート。
あまりに多くの狂気と騒乱が起こるので、ハイジのキャラと復讐の探求は時に後景に追いやられてしまう。
考えなければならないのは、ホラーにルールはなく、特にインディーズ映画にルールはないということ。
安っぽいトーンだけでなく、チーズに溺れた映画を作ることもできるのだ。つまり、この映画を楽しめるかどうかは、どないな考え方で視聴者がこの映画に臨むかにかかっている。
今作品派手で大胆で不条理なスタイルですが、全体として機能しているかと問われたら、肯定と否定を行ったり来たりかな。
基本的には、ロバート・ロドリゲスやダニー・トレホのようなタイプの映画をスイス風にアレンジした感じ。
信憑性を高めようとはしていないし、それはまったく問題ない。
ストーリーはテンポよく進み、注意を引きつけるのに十分な展開が必要なんやけど今作品がそれを達成しているようには感じられない。
古典的な独裁者タイプの悪役対野生の負け犬という構図で、それはうまくいっているけど、ストーリーの進み方がかなり雑でした。
これといったサプライズもなく、足を引っ張るばかりで、せっかくのフィナーレのエネルギーを削いでしまってた。
また、もうひとつ弱点があった。
それは、アリス・ルーシー演じる主人公ハイジ。
残念ながら、彼女にはこの物語を牽引するような大きくて魅力的なエネルギー個人的に余り感じなかった。
このキャラには、チョイおとなしく、空虚な感じがする。
彼女は外見では激怒しているんやけど、内面では重要な個性が欠けていあ。
まぁ、しかし、それ以外のキャストは皆、メロドラマ的で大げさな音をうまく奏でてた。
意外なところでは、キャスパー・ヴァン・ディエンが最強の一人で、トランプの個性とハッセルホフのスタイルをミックスしたような、おバカで滑稽な性格になじんでいる。
今作品はまさに思っている通りの映画で、不条理を純粋に楽しんでいる。
すべてがうまくいっているわけではないが、本当にただひたすら、エフェクトは強力だし、演出もまたその通り。
脚本にはやや失望させられたのは否めないし、物事を面白くし、観客の注意をより強く引きつけるには、ペースを上げ、いくつかの展開を加える必要があったと思う。
まぁスイス産エクスプロイテーション・ムービーとしては悪くはなかった。
ど~でもいいけど、映画に登場するアサルトライフルは、1957年から1990年までスイス軍で使用されていたSIG510やった。
スイス陸軍の兵士は、兵役を終えた後、通常セミオートマチックに改造したライフルを所有する。これらのライフルは、コレクターや趣味のターゲットシューターの間で広く普及していることから、映画に登場するSIG 510ライフルはレプリカではないとは思う。
※賛否が行ったり来たりした感想で🙇。
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