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ビーストのbackpackerのレビュー・感想・評価

ビースト(2022年製作の映画)
3.0
怪物退治が題材のモンスター映画の系譜に名を連ねた、動物パニック物の秀作!

『FRANKENSTEIN』(1910年)を始祖と考え、ベラ・ルゴシ主演の『魔神ドラキュラ』等のゴシックホラーの古典以降、ジャンル映画として連綿と紡がれてきたモンスター映画の歴史。
1970年代には『JAWS』(1975年)の大ヒットもあって、B級ジャンルからメジャースタジオ製作に潮目が変わり、SFXや特殊メイクの進化によって、まさに黄金時代を迎えました。
現代モンスター映画は、CGモンスターが台頭し、特殊メイク系はスッカリ廃れてしまいましたが(この辺りの話は『クリーチャーデザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち』が参考になります)、モンスター映画というジャンルは元気に作られ続けています。
本作も、モンスター映画というジャンル作品として産声を上げたわけですが、サバイバルスリラーとしても、かなりウェルメイドな作品ではないかと思います。

まず驚かされたのは、ライオンのCGの出来栄えです。
実写版『ライオンキング』で完成されていたと理解はしていますが、大型ネコ科動物と人間のじゃれあいや肉弾戦が、実にリアルで驚きました。
その上で、思いの外長回しが多いというのも凄い。カメラマンがキャストについて動き、緊迫感あるシーンを立て続けに見せてくれるわけですが、そんな中でもライオンが縦横無尽に襲いかかってくるんですから、こりゃー大変な手間がかかってますね。

脚本は、①亡き妻に思いを馳せつつ父と娘達の関係再構築を目指す、②ライオンを狩る密猟者と動物を守る監視員の戦い、③群れを崩壊させられた雄ライオンの復讐、これら3つの要素を絡めてドラマを構築しており、特に③が見せるド迫力のスリラー演出が見せ場を量産して、大変素晴らしい出来栄えになっています。

見どころは、なんと言ってもイドリスパパの奮闘全シーン。
幾度も殺人ライオンに襲われ、都度身体と精神をボロボロにしながらも、二人の娘を守るため懸命に戦う姿は、グッとくること間違いなし。
そういえばこの構造、『96時間』系統の父と娘(息子)物と一致しますね。なんてこった、完全に見落としていました。そうか、本作はモンスター映画ジャンルであり、スーパーダディ映画ジャンルにも属しているんだ……。


家族を守りたい男と、家族を奪われた雄との愚直な争いの劇は、近年見た動物パニック物の中でもかなり面白くまとまっていましたが、これが90分台の作品というところも文句なくありがたいですね。
わずかなシーンカットで午後ロードにすぐかけられるコンパクトさなのに、中身はしっかり詰まっている、思わぬ掘り出し物だったと言わざるを得ませんね。
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