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パリタクシーのbackpackerのレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
4.0
"人生にとんでもないサプライズが乗り込んできた"

「あのキスの味を覚えてる。ハチミツとオレンジの味」

【雑感】
想像通りのいい映画。美しい終活。
主演はフランスの国民的シャンソン歌手リーヌ・ルノーと、人気コメディアンのダニー・ブーン。2人とも俳優でもあり、かつ私生活でも良き友人とのこと。
マドレーヌ(演:リーヌ・ルノー)の身の上話を聴くうちに、シャルル(演:ダニー・ブーン)も徐々に優しく接するようになり、やがて互いに秘密を打ち明け合うようになる2人。心を許すようになるにつれて、笑顔溢れる気安い関係性になっていくわけですが、この時の2人の関係性は、実生活で友人同士という間柄であることも、少なからず反映された演技だったように思えます。

想定外だったのは、マドレーヌの過去。
彼女は、女性への社会的抑圧に抗った闘士であり、単なるキュートなおばあちゃんではなかったのです。これは、自由・平等・博愛の国と言われるフランスが、実は男性優位な社会であったこと。そもそも、19世紀ベル・エポック時代のフランスにおいては、国全体で反ユダヤ主義やナショナリズムが台頭していたわけで、ナチスドイツの思想的背景ともなっています。実は反ユダヤ主義はフランスが震源地であったということを踏まえれば、抑圧的社会がフランスにはなかった、なんて幻想は当然抱けません。しかも、崩壊したヴィシー政権の官僚達は、その後も職を追われることなく、ナチズムを標榜して活動を続けているわけで、実はこの点も開かれた社会とはいえなかったことの一端を示しているように思えます。
この点は、昨年(2022年)公開のロマン・ポランスキー監督作品『オフィサー・アンド・スパイ』でも主題として取り上げられていましたので、記憶も新しいところ。
結局、旧態依然とした戦後政治に対するフラストレーションは五月革命で爆発し、女性の権利運動もこの時を境に転換していきます。
マドレーヌが、実は女性の権利を巡る闘いを支えた偉大なる巨人であったことが明らかになるという展開は、全く想像だにしていなかったこともあり、大きな衝撃でした。

忘れてはならないのが、本作は映し出される美しい景観を眺める映画でもあること。まさしく観光案内映像です。素敵な旅路のお供には、素敵な風景を。う~ん、綺麗だ。
そんなタクシー版世界の車窓からも、実は最近主流のLEDスクリーンを用いた撮影を活用しているというから、技術という点でも驚かざるを得ませんね。ま、渋滞の都パリで映画撮影するより、この方がいいよね。
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