CureTochan

パリタクシーのCureTochanのレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
4.5
追記:2024年1月にRotten Tomatoesを見たら、アメリカでも公開されたのかスコアが出ていた。93/97とaudience scoreが高くて納得。

映画の料金が2000円になるなんて高すぎる。私は50過ぎたから家内と1400円になるけど。ただ本作に限っては、それでは安すぎると思った。興味がある向きは、以下の感想は読まずに、上映してるうちに映画館へ行ってほしい。

映画が終わって、お見事!というわけで、うまいビールが飲めた。本作の何が優秀かといえば主人公の運転手が、老女のトークを通して、オーディエンスの気持ちをずっと正確に代弁するところ。すべての芝居の基本はシンパシー。彼は我々をドライブしていたのだ。しかもテンポよく、完成度が高くて無駄なシーンがない。私の持っているフランス映画のイメージとは違うが、ラストシーンの締め方だけは、とってもフランス的で正直。少なくとも日本的ではない。

映画の冒頭で、急いでいる銀行員をタクシーに乗せる。この銀行員との会話は主人公の仕事っぷり、つまり愛想の悪いドライバーであることを提示するのに必要だ。ただその銀行員が降りるシーンが描かれず、急に空車のシーンになって、アレ?と思った。パリの景色をよく知っていればおそらく唐突ではないのだろうけど、こういう演出の不備は気になるもの。でも、そこからあとは大丈夫だった。トイレに行かせるシーンでは、もう完全にマドレーヌをアテンドしている彼が楽しい。新凱旋門が見えてくるからパリの北西のほうへ向かうドライブなのだが、出発点はどこだかよくわからなかった。

原題は「素晴らしい乗車(Courseには人生という意味もある)」、タクシーに乗るマダムが言ったセリフの一節である。英語の題名は Driving Madeleine、ミスデイジーと同じ。そして日本では「パリタクシー」。昔、「フレンチ・コップス」という邦題も、たいがい無茶苦茶だったけど、本作と同様、命名した人の気持はよくわかる。タイトルに「パリ」の二文字が絶対に必要だし、実際にパリを満喫できる映画である。あのタクシーの背景が「どうする家康」と同じLEDディスプレイによる特撮であるとは、まことに驚きだ。NHKと違って使い方がうまいのだろう。

そして本作は、ものすごくフランス語の勉強になる。二人ともゆっくり喋るし、セリフもシンプルなので、字幕さえあればヴィー=人生、プルミエ=初めての、トゥージュウー=いつも、コムサ=そんな風に、ぐらい知っていれば結構聞き取れる。老人ホームの食べ物はやっぱりピューレとコンポートなのね。一方、流れる歌はすべて英語だった。

主人公が、女にもてなくて苦労した、この耳だから・・と言うシーンがある。西洋人は顔を前から見たときに目立つ大きく、開いた耳を悪魔の耳といって嫌う。瑛太の耳だ。otoplastyで検索するとわかるが、子供のうちに手術で治すほどだ。そんな彼の人生の話を聞こうとするマドレーヌの芝居も素晴らしい。そしてラスト近くの、ガラス越しの別れの場面。男はつらいよ純情篇をつい思い出したりした。

笑えたのはもちろんトイレと警察のくだり。幸せな人生なんてものはなく、ただサイコーな旅路がところどころにあれば、その部分を人生と呼べばいいのかな。セラヴィーってそういうことなんだべ?




ネタバレ



最後のタクシー料金が2000ユーロを超えていて、30万円!って思ったけど、そのあとのお金も億単位いってた。あなたは飛び立つ人よ、とマドレーヌが言っていたように、彼はタクシーの仕事をやめるかもしれないな。
この金の部分を嫌がる人が、やはり結構いるみたいだけど、それは日本人がすごく拝金主義であることの裏返しではなかろうか。労働に価値をおかず、原価がどうの、とかすぐ言うのもそうだし。欧州ではお金をあげるのもプレゼントという。相手が喜べばいいのである。

手紙のシーンが卑怯。共感性涙。
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