ネタバレ注意
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これは非常にわかりやすくて、わかりにくい映画である。もう一回観たほうがいいかもしれない。
今までチェックしそびれていたヴァーホーヴェン（オランダ人だからファーホーヴェン？）によるフランス映画。脚本はもともと英語だったらしく、ネット上にある。それをフランス映画にしたのは、プロダクションとキャスティングが理由だろうか。なおfilmarksでは脚本家の名前が間違っていて、デヴィッド・バクストではなくバークである。ディジャンとあるのは原作者だが、Dijanの読み方はジヤンが正しい。
セリフが何語であろうと、この監督らしいスムーズでわかりやすい映像は、見てる側を決して置き去りにしない。つまりシーンのつながりはどこまでも自然かつ、引っかかったり疑問に思ったことが、しっかりフォローされていく親切設計だ。劇伴もキマっていて、今の大河ドラマの頭おかしいBGMが思いやられる。
そうした引っかかりのラストが、敬虔なカソリックである向かいの美人妻レベッカが、主人は心を病んでいたと語ったあと、帰ろうとしたミシェルを引き止めていう一言。貴女に感謝しているの、ほんの短い間でも主人の望みをかなえてくれていたことを。ミシェルは、すべて知っていて放置していたこの人妻のヤバさに戦慄する（と脚本に書いてある。Michelle looks at Rebecca. The realization that this woman knows the truth of Patrick’s death chills her.）。ここまでは、あの日本語字幕だけでは明確でなかった。語り口がいくら親切でも、「普通のフランス人」の感覚がイマイチわからないので、日本人には伝わらないポイントが多い。
美人だけど阿呆のレベッカの描写はローマ・カトリック信者をバカにした痛烈なシニカルムーブではあるのだが（監督がそう言っている）、その感じなんてまさに、逆にこの映画から学べることだ。「ダ・ヴィンチ・コード」やハリーポッターのような大作もカトリックに怒られているが、こうしたミクロな描き方のほうが底意地が悪い。それで驚いてるミシェルのほうも、大概である。父親は宗教上の動機で子供たちを何人も殺し、証拠を消すために血の付いた服を燃やすのを手伝って灰を浴びたところを、少女だったミシェルが写真に撮られ、今でも知らないオバハンから嫌がらせをされるような境遇にある。それなのに、パトリックというレベッカのヘンタイハズバンドを殺す作戦に、自分の息子を利用する。「歴史は繰り返す」である。精神年齢が低い息子は、しっかりトラウマになったことだろう。でもこの息子は彼女に似ず、子供がほしい、いい親父になりたいってのは切実かつ、日本人には希少なナイスガイと思える。ミシェルの親父のほうは、娘が面会に来るからって彼女の怒りを拝聴するどころか首を吊ってみせるなんて、げに遺伝とは恐ろしい。ミシェルの考えが、すべてわかっていたに違いない。そしてミシェルも親父の気持ちを理解した、、いつのことかは知らねど。
隣人のパトリックという頭のいいヘンタイは、ミシェルの観察によると珍宝に割礼をしていたので（入れられた感じでわかるのかしら）、ユダヤ教徒であることが示唆されている。実際、レベッカと一緒にローマ教皇のミサを観たりもしなかった（ユダヤ教にとってキリスト教はカルト）。銀行員でユダヤ、といえば悪役のステレオタイプであり、このあたりを論じたユダヤ系のウェブサイトの記事があった：
https://forward.com/life/362541/whose-fantasy-is-elle-and-is-patrick-jewish/
ただヴァーホーヴェンにかかれば人種も宗教も関係なく、すべての人がオカシイのでダイバーシティはバッチリである。そして全員が、我々みたいなのだ。そんなに嫌な人にも描かれない。
ただ最後まで、ミシェルという女が何を重要だと思って生きてるのか、はっきりしないのは気になった。最後にレズプレイを試すほどの親友と仲直りするが、そこまでの関係でもピンチの時に頼れないのだろうか？自分の思いどおりにしていることはわかるんだけど、彼女のほうも一身にストレスを浴び続けているため、最後に一人ブチ殺すぐらいでは発散しきれてない気がする。内面がも一つ計り知れない。原作の小説では彼女の一人称で話が進むため、考えはすべて明らかだそうである。猫が小鳥を殺したので助けようとする彼女も、家族を金食い虫だと思って攻撃する彼女も同じ人だということはわかるんだけど、たとえばゲーム制作会社をやってて変な動画が回覧されるとか、やたら情報量の多いディテールが発散してしまって、キャラクターの完成度に貢献してない感じがする。
