CureTochan

ナショナル・トレジャー2/リンカーン暗殺者の日記のCureTochanのレビュー・感想・評価

3.9
(後半にネタバレあり)

こういうエンタメ映画にこそ、実はそれを作った国民の本性が現れる。アメリカンがそれを飲み込んだ証拠に、ちゃんとヒットもした。この映画を観て、ビートルズの「ロッキー・ラクーン」という歌に出てくるサウスダコタのブラックヒルズに何があるのかを知った。ダコタというのはインディアンの言葉で、「仲間」という意味らしい。歴史ものの本作に、しかしそういう話は出てこない。

日本人がアメリカの歴史をよく知らないように、概してアメリカ人は原爆のことを知らないというのは「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」を観たらわかる。彼らの多くは「サダコと千羽鶴」という教材を読まされるので何年もあとの原爆症のことは知っている。しかし一発で10万人が殺された核爆発の知識がないため、核実験場でインディが冷蔵庫に入ったら助かったという描写で笑うことができる。関係ないけど「リング」の貞子を見たアメリカ人には、白血病で死んだサダコと混同した人もいたと思う。「オッペンハイマー」は、そんなアメリカ人を教育するための映画であって、日本人には一昨日やってたNHKの特集番組ぐらいでちょうどいい(英語のセリフの機微を理解するのも難しいだろうし)。完成しないうちにドイツが降伏してしまって、日本が降伏する前に慌てて投下したとか、ソ連に対するデモンストレーションの意味があったとかいうが、結局は作れてしまったから使うしかなかったに違いない。そこに、作った科学者が良心の呵責を覚えるべき理由が生まれた。もともとユダヤ人のオッペンハイマーにはドイツ人への復讐という動機があり、でも最終的には、(ドイツを裏切ってユダヤ人だけは保護してきた)日本人を都合20万人も殺すことになったというのは、血は水よりも濃い=民族より人種の違いのほうが大きいという証拠であろう。間違いなく「白人の国」には落とせなかったのだから、この点こそ原爆をちゃんと教育できない後ろめたさの根幹であり、ハリウッドが題材にすべき事実である(「オッペンハイマー」は観てないので、もし題材にしてたら教えてほしい)。

そして本作には、アメリカインディアンが出てくる。いや、白人に殺されすぎて一人も出てこないが、彼らの不在というか、消えた文明が出てくるのだ。リンカーンがアメリカ原住民の遺跡を知っていたというのも、すごい設定だ。黒人奴隷は開放したけど、先住民であるインディアンは殺しまくった大統領の話として、座りが悪くないのだろうか。そして何よりも、大統領の顔が4つも彫ってあるラシュモア山が、インディアンたちが土地の権利を今も主張しているというブラックヒルズにあるのだった。彼らにとってこの山は聖地であり、その岩にあんな顔を彫られたというのは最悪の辱めといえよう。米軍に占領された日本が、京都の大文字山にHollywoodの看板を立てられるようなものだ。違うか。彼らはパーティの客に銃を渡し、動物の代わりにインディアン狩りをさせていた。100年間に5600万人を殺したとCNNが言ってるので、一年あたり56万人。そういう感覚だから日本に原爆も落とせるわけだ。アメリカ原住民に対するホロコーストに比べたら、ゲイツ家がリンカーン暗殺に関わっていたなんて些細なことだ。

本作に出てくる本当の歴史として、南北戦争のとき、アメリカを弱体化させたいイギリスが南軍に協力したといったくだりは面白い(だから戦後に北軍政府は英国に賠償を求め、支払わせている)。そうした「歴史の勉強」という側面がこのシリーズには期待されていて、それがゆえに、インディアン殺しみたいな都合の悪い話は出せないのだ。あとこのネタのおかげでヨーロッパロケの景色が見られたし、この方向性で続編は作れないだろうか。

ただ一方で、地下に巨大な遺跡があったというオチは、無理矢理だけど現在のネイティヴ・アメリカンに気を遣ってる感じもする。彼らはもともと文字を持たなかったので、あの木の板に書かれてるのは「オルメカ文明」の文字らしいが、メキシコの文明だから、北部のサウスダコタ近くにあるのは全然おかしいそーだ。だから歴史を尊重してるわけではなく、失礼な話でもある。だが一応、それをナショナルトレジャー=国宝と呼んでいる。歴史泥棒?ちなみに、本当の遺跡としてアナサジ文明というのがコロラドにあるが、人口が多くなる秘訣である農耕文明ではあるものの横穴式住居レベルである。

アクション映画としては、そこまでスゴイ場面を作ろうという気概は感じられない。むしろどこまでも、映画は客の期待の範囲内に収まることに終止するが、ただひとつ、うれしい驚きだったのは中盤にヘレン・ミレン姉さんが出てくるところだ。終盤にかけて一番いいセリフを言うのも彼女だし(私は自分の時間を犠牲にした、のくだり)、一番いいシーンもこの老夫婦だし、もうハリウッドはヘレン・ミレンに頼りすぎ。アメリカも、まだインディアンの土地を占領しているイギリスの出張所なのだろう。
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