CureTochan

エアフォース・ワンのCureTochanのレビュー・感想・評価

エアフォース・ワン(1997年製作の映画)
3.9
良くできた映画だったという記憶だけあって、そのわりに再鑑賞してないのが不思議だった。娘が興味を示したのでリビングで再生したら一同、すっかり引き込まれた。とにかく次から次へと、素晴らしいキャスティングに圧倒され(特に女優)、それを動かすペーターゼン監督のディレクションも手堅い。「スパイダーマン」のロシア系家主の俳優が出ていたので、娘と二人で「家主がんばれ!」とか応援した。悪者だけど。あとターミネーター2の養父の俳優も出てくる。

満足して観ていたら、終盤に少しテンションが落ちて、そのまま終わった。本作はアクション大作にしては珍しく、Rotten Tomatoesの観客スコア=66%に対して、79%と評論家スコアのほうが高い。たしかにすごく作りが良いという技術的というか、俯瞰で見た評価と、たぶん私が再鑑賞してこなかった理由であるエモーショナルな物足りなさと、なんか合致する。

どうしてそうなるのか、列挙するなら、まずテンションの高い芝居をしていた役者が先に退場しちゃったこと。そこからプロット自体に蛇足感が出てきた(これはホワイトハウス側の裏切り者の事情を、かったるいということでカットした副作用でもある)。そして前半の高揚感がなくなってみると急に現実に直面するというか、いろいろ気になる点が出てくる。ロシアの大統領が、アメリカと協力して逮捕した政敵を射殺できて快哉を叫んでいるシーンを見てると、ホントにそいつは悪者だったのかしらとか。ゲイリー・オールドマンには大義がありそうだったし。またハリソン・フォード大統領を助けるために、戦闘機がミサイルに突っ込んで殉死する場面とかも、なんかつらい。思えば最初のところでも、ハリソンちゃんが家族を心配してもたもたするから、巻き添えで殺された護衛が二人ほどいたように思う。この大統領だって元は兵隊なのだが、そのことが災いして、本人が職務を最優先していない。もし先に逃げていたら、護衛官だって逃げられた。もちろんこっちは、主役ハリソン・フォードが敵から逃げるはずはないと知っており、いつもの彼の負けず嫌いキャラを期待している。現に中盤には黒人の優秀な女に「君が新しい郵政省の長官だ」みたいな軽口を叩いてたのに、どうもそのノリに合わないレベルで、やたらと味方が死ぬのである。中盤、あの〇〇のお姉さんが殺された時点で私はかなりテンションが下がった。そして最後に、特撮の仕上がりがまずすぎる。これは技術的な問題ではない。5年後の「007 ダイ・アナザー・デイ」のヤバさを思い出した。パラシュートで降りてる人物をバストショットで撮るというのは、どうやっても馬鹿っぽいのだろうか?

要するに蛇足の部分を思い切ってカットするか、そうでなければハリソン・フォードの使い方が荒いのを直すとよい。たしかケビン・コスナーが参加できなくてフォードが主役を受けたそうだが、フォードだってもっとシリアスにできるはず。たとえばテロリストとは交渉しない、というモットーを翻さざるを得なくなる場面はドラマとしてのピークだが、自分のためにスタッフが死んでいくということも組み込んだ、大きなジレンマにできなかっただろうか?そこまででなくとも、せめて優秀なスタッフが死んだことに対する主人公の気持ちがわかるように、前フリとして、スタッフとの会話がもっとあってもよかった。はたまた主人公もダイ・ハードなみにもっとボロボロになり、義理と人情の板挟みで疲れ切っているほうがよかった。

映画のゴールがどこにあるのか、作ってるサイドにジレンマがあったという問題かもしれない。あくまでも大統領が襲われるという事象をリアルに映像化するには護衛は死なないといけない。でも派手なアクションを撮りたい。飛行機で給油するとか、最後は洗濯物みたく人まで運ぶとか、そういう新しくて楽しいやつを見せたいっていう。この全体の気楽な感じが、2001年のニューヨークテロより前の時代を感じさせるし、逆にここでテロリストに喧嘩を売っているハリソン・フォードのセリフも、そのモノホンアタックの前フリであるかのように感じられる。
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