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SISU/シス 不死身の男のCureTochanのレビュー・感想・評価

SISU/シス 不死身の男(2022年製作の映画)
3.8
いわゆるB級アクションというやつだが、ラップランドの荒涼とした原野が意外と魅力的で、VIVANTのB級カメラワークとは雲泥の差だ。「寒さ」があまり表現されてなかったのは、観光客に来てもらいたいからだろうか。本作をB級にしているのはプロットホールというか、細部のテキトーさであるのだが、新鮮なアイデアや一貫して漂うユーモアがそれをカバーして、終わりまで見せられた。

ミニシアターで予告編を見て、アマプラにあったので娘と再生。戦争を舞台にしているが戦争映画ではなく、単に悪者を設定するのに簡単だったのがナチというわけだろう。こっちにはフィンランドの敵といえばロシア人という思い込みがあり、混乱した。ドイツ人同士が英語で会話してるのもその原因で、おそらく多くのフィンランド人が英語を理解できるからだろうと思ったが、あとでフィンランド人に尋ねてみると、それもあるがワールドワイドに映画を売ろうとした結果だろうと言われた。

BattlefieldというPCゲームには、ノルウェーの女レジスタンスがナチと戦うチャプターがあった。だがフィンランドの場合、はじめはナチと共闘してソ連と戦っていたあと敵同士になったという経緯があり、そのため戦後も枢軸国側に入れられた。いっときのゴールドラッシュも終わり、ソ連もさして興味がなかったラップランドを焦土にするなんて、ヒトラーの嫌がらせとしか思えないが、フィン人にはそうした恨みも残っているに違いない。そのナチの描写も、意外と奥行きがあってよかった。

市街地を焼き尽くす焦土作戦てのは、燃料と食料という熱源を敵から奪うところに本質がある。ラップランドには木が少ない。シュールストレミングみたいなゲテモノ料理も、塩を精製するために燃やすものがないので塩漬けにできず、海水をそのまま使ったのが最初らしい。それを食えないと生き延びられなかったので、フィン人はサルミアッキみたいなアンモニア臭がするものをお菓子だと感じるまでに超進化した。おすすめはしないが、自分は好きだと彼らは言う。

死を受け入れない、つまり諦めないということがテーマになっているようだが、正直どうでもいいし、そこをつきつめるならラストは主人公が死亡するという展開でもよかった。その場合、捕虜として性奴隷にされていた女が覚醒し、彼の意志を継いでめちゃくちゃ強くなる。人は殺せても意志を殺すことはできないというテーマで、どうだろうか。本作における女たちの活躍は少々、中途半端で、つながりが有機的でなかった。本当のラストに、老兵もまた生きていた、でも良い。

ガソリンスタンドと飛行機のシーンのあと、主人公は敵を追いかけて飛行機で飛んだはずなんだけど描写が省略されていてわかりづらい。飛行士が生きていて、彼に操縦させたあと殺したのだ。

余談だがフィンランドとハンガリーは少しモンゴロイドが入っている。イヌイットとかフン族とかに由来するのだろう。言葉はゲルマンでもスラブでもなくウラル語。ハンガリーには、日本人のように酒を飲めない人がいる。あとは数学に強い、苗字を先に書く文化がある、サウナや公衆浴場の裸の付き合いとかも似ている。フィンランドも行ってみたいけど、ロシアの戦争で、9時間のフライトで行けたところが13時間になっている。
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