たにたに

福田村事件のたにたにのネタバレレビュー・内容・結末

福田村事件(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【また何も言わず見てるだけなの?】2023年70本目

1923年9月1日、関東大震災。日本の大混乱に乗じて、朝鮮人が日本人を襲っているという"デマ"が蔓延した。
井戸水に毒を投じている、家屋を放火している、数百人を虐殺している。など、ありもしない噂が広まり、それは千葉県の福田村にまで伝わって自警団を組織させた。
ちょうどそのころ香川の讃岐から福田村へ行商に来ていた15人は、現地の村人から方言や訛りによって朝鮮人だと疑われ、女・子供かまわず10人が殺害された。


実際に起きた事件を元に映画化された今作は、差別やメディアによる煽動がもたらす人間の愚かさを知らせてくれる。
このようなことが2度とあってはいけないのだが、果たして我々はいま、同じ過ちを繰り返してなどいないと言い切れるのだろうか。

行商人のリーダーを演じていた瑛太さんのセリフが強く心に突き刺さる。
「鮮人だったら殺してもええんか!」

見ている私自身もこのシーンにはハッとした。その通りだ。目の前の人間が日本人であるか朝鮮人であるかなど関係ない。そもそも殺してなどいけないのである。
しかし、福田村の人々は自衛本能をあらぬ方向へと暴走させ、冷静な判断を下すことができなかった。

もちろんそれを制止しようとした人々もいたに違いない。しかし、それがどれほど勇気のいることか。村の集団倫理を崩すことは容易ではない。集団の恐ろしさもまた身にしめて感じた。


この作品の素晴らしいところは、なんといっても脚本であり、日本人の情や欲を見事に描いている。
また、御守り、朝鮮扇子、朝鮮飴、白磁の指輪など、物語の展開に影響を与えるアイテムたちが登場することで、それぞれ物に込められた思いを説明なくして観客へと投じることができている。

殺害描写はR指定に引っかからない程度に作られており、たくさんの人に届けたいその気持ちも伝わってくる。ぜひたくさんの人に見てほしい。
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