おさるのじょじへい

福田村事件のおさるのじょじへいのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.2
「流言飛語には、気を付けないといけないなぁ…」と、鑑賞後に連れがぽつりと。
一緒に映画を観に行く機会も少ないですが、大概の作品において、淡白な感情しか湧かない連れにしては、珍しい。それだけ心に響いたのでしょう。

森監督が伝えたかったことは、噂や差別の恐ろしさに限ったことではないでしょうけど、でもこの点だけは、鑑賞者みなが胸に手を当ててみた方がいいかもしれません。
流行りや多勢の潮流には乗らないわたしではありますが、何かしらの有事時に気が動転したのならば、盲目になるかもしれない。そう自分に言い聞かせてみました。

初めて利用する映画館での鑑賞で、思い切り首が痛くなる席を選んでしまったのですが、それを全く忘れてしまうほど没入しました。2時間半という時間も感じずに。

語弊はありますが、森作品はやはり面白いです。
鑑賞者の知らない世界でも、まるで当時者かと錯覚させてしまう導入、筋立て。また多方面からの視点で描くことによって、自分の固定概念に警鐘を鳴らしてくれる。森監督はドキュメンタリーだけじゃなく、劇映画でもさらりとそれをやってのけました。凄い!
史実も事前に聞いていたのに、事件の場面では、どうにか場が収まって欲しいと願ってしまったし、扇動され血気に逸る人々の姿に、心からうんざり。あの場にいる気持ちになり、逃げ出したいとまで感じました。
そのうえ、虐殺の口火を切った光景がとても生々しくて。夫を亡くしたと思い込んだ女性の絶望を、それとは受け止めずに他者への憎しみとすり替えてしまったという訳です。彼女の人物像はフィクションだとしても、心理学的観点から見ても、見事に成立する展開ではないでしょうか。
これらは長いことドキュメンタリーを手掛けてきた森監督だからこそ、描き切れたリアルさかもしれません。

人間の生理的な感覚や、幼少期から刷り込まれた思考もあるため、差別は簡単に無くならないでしょう。でも戦争は、しないという選択ができるはずなんです。
劇中で澤田さんが言っていた通り。戦争にいい戦争なんてないのです。