ゆずた裕里

フェイブルマンズのゆずた裕里のレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.8
スピルバーグ監督自身の少年時代のエピソードを繋いだとりとめのない自伝的映画……に見せかけた、まさかの青少年向けのスピルバーグ直伝『映画制作虎の巻』。


ストーリーとしては映画『地上最大のショウ』に魅せられて8ミリカメラで映画を撮り始めた少年の青春物語。
小さい頃に読んだスピルバーグの伝記に書かれていたエピソードが映像化されているのにはワクワクしたが、
内容自体は結構ありふれたもので、青春物語につきものの恋愛も『ニューシネマパラダイス』ほど深く描くわけでもない。

それよりも8ミリカメラでの映画制作の過程および、作られた映画にどれだけ多くの人が心動いたかに力が注がれている。

西部劇や戦争映画などの娯楽作品に友人や家族から拍手と喝采が送られるのはもちろん、
編集されたホームビデオでさえある時は家族をはげまし、ある時は自身の思いを伝える、そんな映画の力について丁寧に描かれている。
時にはその映画作りによって、自分自身が傷ついてしまうこともありうる事実さえも。

そして、さまざまな工夫をこらした8ミリフィルムでの映画制作の過程はワクワクもの。
自主制作でもやろうと思えばなんでもできる時代に、すべて手作りでの映画制作は興味深い内容ばかりだ。

また作中で描かれる制作の工夫以外にも、『セリフを境に場面転換する編集』や、『ある秘密に気づいてしまった心情を言葉で説明せずに画だけで描写する表現』など、映画制作のテクニックが本作にはいっぱい詰まっている。
まるで子どもたちに向けた映画制作の教科書のようだ。

そう考えると、デヴィッド・リンチ演じるジョン・フォード監督の描写や言葉もそういった要素があると同時に、監督志望の若者に向けて映画でメシを食う覚悟を説いているようにも思える。



「自分がかつて映画を作ったように、興味があればこの映画をマネして、参考にして、君たちも映画を作ってみてくれ!
そんな度胸と覚悟のある君たちに映画界の未来を託す!」という、未来の巨匠たちへの監督からの熱いメッセージに思えた。
もうスピルバーグ監督もいい歳ですから、こういう作品を撮るのも誠実な気がしていいじゃないですか。

誰が何と言おうと、俺はこの映画を推す!!!
個人的なことを言えば、できればもっと早くに撮ってほしかった。
ゆずた裕里

ゆずた裕里