ゆずた裕里

バビロンのゆずた裕里のネタバレレビュー・内容・結末

バビロン(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

チャゼル監督が描く娯楽映画讃歌。

前半はハリウッド全盛期のショービジネス界を舞台に、エンタメ的見せ場を軽快な音楽とともにたっぷりと見せてくれる。
糞も吐瀉物もエログロも暴言も暴力も、何もかもあえて本作でぶちまける精神は当時の映画業界の混沌と暗部の表現だけでなく、古今東西すべての商業娯楽映画への敬意の表れと見た。本邦で言えば東映の鈴木則文監督の作品のような。

退廃的なパーティの場面に、狂気にも似た熱気と勢いがほとばしる映画の撮影。差別もセクハラもパワハラも堂々と罷り通る。
しかしハリウッドの恥部と暗部もまた映画の歴史。
その中である者は成り上がり、ある者は繁栄を謳歌する。

時代は進み、世の中が表向き上品になっても、人間の低俗さは変わらない。
なんとか時代にしがみつく者、置いていかれ映画史に消えていく者。
しかしそれはこの時代のハリウッドだけのものでなく、いつの時代も、世界のどの場所でも見られるありふれた光景。
かつての『夢の工場』に生きた制作者に役者たち、彼らの行き着く先は……。



『ラ・ラ・ランド』で過去のミュージカルのオマージュに挑んだチャゼル監督らしく、
本作ではミュージカルの金字塔『雨に唄えば』に最大級のオマージュをささげながら、そこで描かれなかったハリウッドの暗部に焦点を当てている。
つまり本作で描かれるのはいわば『ミュージカル俳優への転身に失敗したドンと、リナが舞台から消えたその後の物語』だ。

さらにラストでは『雨に唄えば』の本編の一部も流れる。
個人的に映画の中でオマージュ元を明言するような演出は無粋で好きではないのだが、
本作ではそこが『自分たちはなぜ映画に携わるのか』というテーマに大きく関わるところなので悪いとは感じず、逆に大きな感動につながっていたように思う。

そんな結末ありきのストーリーなので途中少々ご都合なところもあり、えげつない場面も多々あるが、あのラストの前ではすべて許せてしまう。



『いま映画に出ている役者はやがてみんな死んでしまうけど、何十年も後に子どもたちがあなたの映画を観た時、あなたのことを親しい友達のように思ってくれるのよ』
『映画の歴史という、なにかとても大きなものの一部になりたかったんだ』

この二つのセリフはチャゼル監督からのメッセージにして、
映画を愛し、映画に夢破れたすべての人間に向けての最高の福音だ。


『映画大好きポンポさん』レベルで、その対象への愛ゆえに創作活動をしている人に見てほしい一作
ゆずた裕里

ゆずた裕里