ゆずた裕里

無法松の一生のゆずた裕里のレビュー・感想・評価

無法松の一生(1943年製作の映画)
4.5
父を失った少年の成長物語と、彼を温かく見守る人力車引きの主人公松五郎の物語。

松五郎のキャラクターはコミカルで温かく、最初の20分間は作品全体もかなりコメディタッチ。
当初は暴れん坊の一面も見せていたが、少年と出会ったことで優しく丸い性格に変わっていく。
ひ弱だった少年が強くたくましく成長していくのも併せて、登場人物の変化、成長が丁寧に表現される。

そんな物語が、少しぼやけたような柔らかい雰囲気の映像で描かれる。
人力車の車輪が回るシルエットで描かれる時間経過や、オーバーラップによってファンタジックに描かれる松五郎の走馬灯など、印象的な場面も多い。

祇園太鼓の直後に松五郎の走馬灯が流れるのは検閲カットの都合上仕方ないものがあるが、
その編集のおかげで松五郎が最後に祇園太鼓で少年の成長を祝った後、そのまま儚く世を去ったようにも見え、それはそれで美しいものがある。

戦時中に作られ、検閲局とGHQの圧力で二度もカットされた本作。
このバージョンでの『少年の成長と、からを支え、見守る松五郎』というテーマならば、GHQにカットされる前の少年が松五郎たちの前で歌を歌ったり、大喧嘩の前フリで大勢が集まる場面があると思われるバージョンの方が、より内容をよりしっかり描けていたのではないかと思う。

違う時代、違う価値観のもとで作られても、子どもが健やかに成長していってほしい思いは変わらない。
ある種のファンタジーとしてならば今の時代にも通用する物語でした。



本来のシナリオ通りの物語については、三船敏郎版の感想にて。
ゆずた裕里

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