とりん

aftersun/アフターサンのとりんのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.1
2023年49本目(映画館18本目)

30前半の若い父親カラムと11歳の娘ソフィとのある休暇を綴った物語。
ストーリー性や背景の説明はほとんどなく、ありのままの映像がそこに映し出されている。
各々の表情から読み取れる心情描写とか時折見せる孤独感などが痛いほど突き刺さってきた。
映像回しも独特な感じで、ワンシーンにおけるカット割やピントひとつにもこだわりを感じる。
そして差し込まれる父や娘が録画された映像たち。
当時の父親と同じ年齢にまで成長したソフィが当時の録画された映像を見返して描かれる娘視点の話ではあるので、父の心情描写は詳しく描かれていない。

何を伝えたいかとか父が実はどういうことを考えていたとかそのあたりとか深くは理解できていないけれど、この手の作品は非常に好きだし、何より雰囲気や映像にのめり込まれる。
やはり映像が良いし、うまく差し込まれる曲や何気なく後ろでなっているありふれた雑多な音たちがより情景を映し出している。
ビデオカメラの音とかポラロイドとか懐かしさしかない機械音もたまらない。それらがうまく重なって非常にエモーショナルに感じられて、だからこそ突き刺さる。

11歳というこれから多感な時期にさしかかるという絶妙な年齢だからこその感情とかもあるだろうし、若くして父になったカラムはあの時どう思っていたのかとかもソフィとともに考えてしまうのだろう。
あの後父は死んでしまったのかとか深読みしてしまうけど、あえてそういうのを明確に語らないのも良い。
大人になったソフィは同性のパートナーと幼い子どもがいることも描写から読み取れる。
それは父の自分のままに生きてほしいという願いをしっかり受け取っているように思える。
あの頃に父と過ごしたあの時間はかけがえのないものであり、ソフィのそれからに少なからず影響を与えているだろうし、そうでないのかもしれない。
だからこそ父はどういう気持ちだったのかと当時の映像を振り返るのかもしれない。

少し前に観たソフィア・コッポラの「Somewhere」も父と娘のホテルでひとときを過ごすという点と他にも通ずる部分があり、監督自身も影響を受けたと語っているようだ。
でも外に行くこともほぼなく、ホテルの敷地内で完結していて、もっとささやかなところである。あまり風呂敷を広げずにあの時間のありのままを描いている。

大人になったソフィのシーンもすごく印象的。
バカンス中にもお金がないようなことを口にしていたが、決して安い買い物でないあの絨毯が娘の部屋にあるところも。
これはいろんな人の感想なんかを読みつつ、また自分とは違う視点や考えに触れたいところ。

父役のポール・メスカルは本年度のアカデミー賞主演男優賞にもノミネートしているのも頷けるほどの絶妙な演技だったし、娘役のフランキー・コリオも瑞々しく、若いながらもだからこその良い演技をしていた。
こういう映画は、家で鑑賞するよりも映画館で観た方がより映像に引き込まれて、同じような視点に立つこともできて、少なくとも3割増しくらいに良く思える。本来の映画の在り方ではあるけど。

音楽もすごくよかった。
鑑賞後改めてサントラを聴いてるとそれだけであの雰囲気が蘇って引き込まれそうになった。このサウンド没入感すごい。
音楽担当のOliver Coatesはトム・ヨークからも認められて、RadioheadやJohn Greenwoodの楽曲製作にも関わっているらしい。
もちろんとてつもなく豪華に流れる90年代を代表する曲たちの劇中歌も最高でした。
歌詞とその時の心情が絶妙にマッチした「Under Pressure」とか特に素晴らしかった。
とりん

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