シズヲ

リオ・ブラボーのシズヲのレビュー・感想・評価

リオ・ブラボー(1959年製作の映画)
4.1
※2024/4/21に期間限定上映で再見。改めて振り返ると、こんなシンプルな筋書きを2時間超えの尺で語っているのにしっかり面白いのは凄い。登場人物のキャラ立ちとそれを物にした役者陣の好演、キャラクターを端的に掘り下げる枝葉のエピソード、ユーモアを散りばめた粋な作風など、やはり娯楽作の本質的な魅力に満ちている。そして劇場で見ると癇癪爺さんを演じるウォルター・ブレナンのインパクトが尚の事強い。彼の滑稽なシーンで常に周囲が笑っていたので何だか楽しかった。

王道西部劇。王道なのに典型ではないという奇妙な映画。正統派らしいイメージを煮詰めて極限まで凝縮した抽象的世界観はもはや“西部開拓時代の物語”というより“西部劇そのもの”。ラストの銃撃戦まで延々と“一つの町”に物語の視点が固定されている構図もまた本作の箱庭めいた空気感を強調している。群集心理による疎外を描いた社会不信西部劇『真昼の決闘』のアンチテーゼとして作られただけあって徹底的に陽性の作劇で、全編を通してユーモラスな趣さえ感じられるのも印象的。しかしやっていることは横暴なゴロツキ一味との駆け引き。緊張感と牧歌性を両立させた作風は前述の『真昼の~』とは違った意味で異質。

ストーリーも「保安官チームとゴロツキ一味の対立」を主軸にしつつ、更に「保安官チームの連帯関係」「酒浸り保安官助手の再起」「保安官と女賭博師のロマンス」などの枝葉に分かれて緩慢に進行していく。銃さばき以上に会話劇や登場人物の掘り下げに比重が置かれているのが印象深い。掛け合いと小競り合いメインで2時間20分もの尺があるのは流石に冗長に感じなくもないけど、そのぶん小粋な遣り取りや突発的なアクション、魅力ある登場人物など様々な要素の切り貼りで引っ張ってくれる。

特に保安官チームというプロ集団の関係性はまさしく目玉。力強い保安官、アル中の助手、癇癪持ちの爺さん(ウォルター・ブレナンの神経質な演技がめちゃめちゃ記憶に残る)、二丁拳銃の青年からなる男達の軽妙洒脱な遣り取りは実に味わい深い。その上で有事における連携は極めてスマートなのが格好良い。もはやスポーツのような協調性。鉢植の合図で青年が咄嗟にライフルを投げ渡し、何の相談も受けてない保安官が即座に察して行動に移す流れなんかは特に素晴らしい。そんな頼もしい保安官もヒロインの前では途端に初心になってしまうのがなんとも微笑ましい。いずれの登場人物もキャラが立っているだけに、ジョン・ラッセル演じる敵の親玉ももう少し目立たせてほしかった気持ちはある。

本作において他に印象深いのは“歌”の使い方。ゴロツキ一味による保安官達への手向けとして送られる『皆殺しの歌』の渋い緊迫感よ。殺意の象徴として流されるその歌が土壇場で決意と再起のきっかけとなって活かされるニクさ。そして『ライフルと愛馬』→『シンディ』を男達四人で陽気に歌う場面の圧倒的な幸福感、美しいほどの一体感。『皆殺し~』への彼らなりの返答めいててグッと来るし、ディーン・マーティンやリッキー・ネルソンといった歌手勢にとっての見せ場でもある。

ジョン・ウェインの逞しい主人公とハワード・ホークスの堅実な演出を中心に“王道”らしさを突き詰めた軽快にして長閑な活劇。しかし西部開拓時代の物語であること以上に娯楽映画としての純粋性を突き詰めた内容はある意味で後年のマカロニ・ウエスタンっぽくて興味深い。
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