愛鳥家ハチ

ゴジラ-1.0の愛鳥家ハチのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

山崎貴監督作品。壊滅的な被害を受けた戦後間もない東京をゴジラが蹂躙するという余りにも酷な設定であり、正直なところ予告を見た段階で鑑賞意欲が失せかけました。焦土と化した東京を更に痛めつけるなど、到底承服しかねると思ったためです。しかし、結論としては観てよかったと思えます。本作はどれほど激しく打ちのめされても立ち上がることのできる日本の強さ、いや人間そのものの底力を見せつけてくれています。

ーー伊福部昭
やはり伊福部先生は神。ゴジラのテーマがしっかりと流れ始めるのがゴジラによる本土蹂躙のシーンではなく、人間側が逆襲を開始したタイミングというのがよかったです。ゴジラを見て育った以上、伊福部先生の神曲が響けば血がたぎるのは必然。その高揚感を反撃の狼煙としていた演出に感服。

ーー初代
ゴジラ70周年記念作品ということもあり、うまく原点回帰がなされていた点も素晴らしいです。野田博士は芹沢博士の立ち位置ですし、フロンガスを用いた海中作戦は画的にオキシジェン・デストロイヤー作戦に近しいといえます。水爆実験によりゴジラがより強大になってしまう演出も反核という意味で初代リスペクトそのもの。ガイガーカウンターの使用もその一つ。

ーーやってない
そして「やったか」は100%やってないフラグという定式を見事に踏襲。フラグを立てては折る、立てては折る。しかし旗を立てすぎでした。もはや様式美であり、お笑い用語で言うところの天丼の域に。

ーーVersion 1.0
タイトル『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』の"1.0"の部分はソフトウェアのバージョンを想起。本作冒頭のゴジラがver1.0とすると、水爆実験で熱線放出の能力を得たゴジラはver1.5位? 最後に撃退され海中に没していくゴジラが変態(メタモルフォーゼ)しつつある描写は、紛れもないver2.0への布石。ゴジラが強くなればなるほど、人間にとってのマイナスは大きくなるわけで、願わくば強大な"マイナス"ゴジラに技術力を高めた人間の"プラス"をぶつけてほしいところ。次は技術の粋を集めたメカゴジラの登場を期待!
(なお、ダメージを与えれば与えるほどより強くなりデカくなるというのは、国民的ゲームの『バイオハザード』のラスボスのようでした)

ーー反戦
反戦のメッセージと武力の賛美ともとれる演出は一見アンビバレントではあるものの、防衛力がなければ自国の存続すら危ういという今の日本を取り巻く現状認識をそのまま投影したものといえます。神木隆之介演ずる敷島のPTSD描写は、特攻から逃げることで生き延びてしまったこと、そして機銃の引き金を引けなかったことで多くの仲間を失ったという自責の念が直接の要因ではあるものの(機銃で倒せる相手ではないことを本能で察知していたのだと理解しています…)、ゴジラという圧倒的な存在を戦禍のメタファーと捉えることで、より一層反戦の色彩を強く帯びるといえます。「戦争はまだ終わっていない」というセリフは、ベトナム帰還兵の葛藤を描いた初代『ランボー』を想起させました。

ーー迫力
銀座に屹立する破壊神に相対し、浜辺美波演ずる典子がゴジラを見て瞠目するシーン、まことに素晴らしく込み上げるものがありました。また銀座を熱線で破壊した後に慟哭する神木隆之介の迫力たるや、一人のちっぽけな人間が巨大で強大なゴジラを凌駕せんとする勢いをすら感じさせます。少なくともあの瞬間はゴジラと人間が気迫において対等であり、後半の逆襲の成功に説得力を持たせていたといえます。

ーー総評
劇場で観て正解でした。会心の一作。
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