戦後、日本。無から負へ。
ゴジラ生誕70周年記念作品。ゴジラシリーズ前作品である「シン・ゴジラ」よりも万人受けする作品なので、おすすめしやすい。
舞台は1945年。主人公の敷島浩一は、特攻へ向かう途中で零戦が故障としたと偽り、大戸島の守護基地に着陸する。彼は戦闘機に乗るものの、戦うことには拒否をしており、その島にゴジラが襲撃するも、恐怖で震え上がり、島の仲間たちは全滅する。
敷島は、戦地に行くことなく、東京へと帰ってきたが身内は戦争で亡くなり、全てを失った。この主役を神木隆之介さんが演じ、作品としても敷島の挫折と後悔についての人間ドラマを濃厚に描いている。
人間ドラマとして盛り上げており、ヒロインの大石典子役を演じる浜辺美波さんの夫婦生活は、朝ドラにしか見えない爽やかさがある。生活を共にするも藉を入れず、赤子を育てるというのも戦争のトラウマがあるものだからだろうか。
後半でゴジラを撃退するために人々が立ち上がるが、政府の人間が立ち向かうのではなく、民衆が立ち向かう。敷島も、当時の戦争のトラウマに向き合い、己の戦争を終わらせるために、前に向かっていく姿は心を打つ。
人間ドラマを濃厚にしつつも、心情は登場人物が喋ってくれるので、今、何が起きているのか分からないという疑問点はない。人間ドラマが濃厚ではあるが、市民だけでゴジラと戦おうとしていたり、ゴジラが襲撃した地の突風で浜辺美波さんが生き残っているという展開は現実的ではない。
しかし、この作品はゴジラなのだ。ゴジラ映画としての人間のリアリティがあり、ゴジラが活躍する場面があれば、それで良いのだ。
後半のゴジラ撃退の作戦、謂わゆる「海神作戦」で山田裕貴さんや佐々木蔵之介さんや吉岡秀隆さんが一丸となり、戦っていく。観客に優しい物語だったので、次の展開は読めるものの、ゴジラを含むVFXの描写は良く、戦艦もカッコよかった。今作のゴジラは、人間を意識しており、明確な敵意があったのも、今までのゴジラと違ったのかもしれない。
ゴジラは街を壊すし、戦艦は壊すものの、あまり恐怖や絶望感は感じなかった。ただ描写として、多くの街や人を襲っていたので、そこはゴジラが異物であることを印象付けたことに成功している。
総じて作品の質が高く、戦後の人間ドラマとしても、ゴジラの特撮映画としても、分かりやすく描いた作品でした。