Ardor

怪物のArdorのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

吉祥寺オデオンにて鑑賞。
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 羅生門スタイルというのは見る前に聞いていて、ぶっちゃけ苦手だなぁとも思ったけど、ここまで境目をあやふやにしてくれると小気味よく見られる。前半に「ん?」と思ったシーンがきれいに回収されるのも楽しい。
 ただ、前思春期の性自認(しかも問題が顕在化するのが早くない?もちろん萌芽はあると思うけど)をフェアリーテールみたいにしてもいいのかな、とは思う。基本的に教室はソフトフォーカスだし、Twitterで誰かが「ファムファタールだ」と言ってたのも無理ない。
 本質的には、「ブロークバック・マウンテン」のように、ホモソーシャルの延長でのセクシュアリティや男らしさの軋轢との性自認でもあるのだけど。
 小学五年生で、性自認にあそこまで悩むのか、また、いじめのリアリティも小学生っぽくない。小学生のいじめってもっと直接的な暴力のような気がするけど、自分が古い人間なのかな。
 でもその中でも異彩を放ってたのが田中裕子扮する校長で、最初はガムをけずり取ってる描写で、こんなに手を動かす校長が悪いはずないのに、と思ってたら、次にうつった時にまたガムを削り取ってて。あ、この人はこびりついた何かを落としたいのかとわかる。
 ミナトが校長先生と吹奏楽器を吹く(王様の耳よろしく)ところが、ホリ先生が自殺を思いとどまるところなど、ここもきれいに群像劇をまとめていて良かった。
 是枝裕和監督の前作「ベイビー・ブローカー」でマグノリアのエイミー・マンの曲が流れるけど、最後の嵐のシーンの群像劇はマグノリアみたい。

 あと、是枝監督は自身で「自分は捨てられた子供の話ばかり撮っている」と言っていた。どうしてカナタとミナトが惹かれあったのかな、と思うと捨てられた子(カナタは父が亡くなる時に不倫していた、ミナトの父も)なのだな、と思った。

 とにかくストーリーデリングが巧みな映画だった。脚本の群像劇が寓話的につながるのでリアルに撮るのは違うのかなぁ、と思いつつ、でもあの中村獅童演じる父の息子があんなかわいいサスペンダー着るのかなぁという。もうちょいそこを詰めて欲しかった気がするけど、、

 でもある意味、「ヴェニスに死す」的な偶然物語としてならありうるのかなぁと。

追記: 後で人と話して、「銀河鉄道の夜」と言われてめちゃくちゃ腑に落ちた。ジョバンニとカンパネルラだね。電車乗ってるしね。
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