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ある男のArdorのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 我々は想像もし得ないが、自分の血筋を消したい人がいる。実際に消した男がいて、弁護士の妻夫木は、その男が他人になりすましていた時間にロマンを感じ、最後にはバーでなりすましを始める。一方で、ゆうとのように、父親が確定しないことに存在の揺らぎを覚える人もいる。父親が確定してから、彼がどうなるか、ハラハラしたけど、彼にとって父親は過ごした時間だった。父親の素性がわかって、どうして父が優しかったのか、わかる。でも、彼が大人になったらどうか。
 これも我々があまり知らないが、(いや、少し知っている)世の中には劣った血筋とされるものに対する拒絶に満ちている。妻夫木は日常的に差別を受け、あるいは差別として、ニュースで問題視される。そんなあからさまかな?と思いきや、実はあからさまだ。僕は弟が知的障害を持っているが、世の中にとてもカジュアルにガイジという言葉を使う人がいる。これは当事者に近くないと見えない。
 ゆうとが、大人になって、義理の父親の血筋を消したくなると、示唆される終わり方だったように思う、、と思ったけどゆうとは原まこと(殺人犯の息子)と親戚関係に全くないんだっけ。

 自分を偽って生きるならインターネットがあるじゃん、と思うけど、戸籍を自在に操れる柄本明は超人的なインターネットの人、人の心の醜い差別心を擬人化した存在なので、何処も同じ。

 柄本明は本当に置いてなお近年に見ない悪の煮凝りみたいな存在の怪演をしててすごく良かった。久しぶりに見た妻夫木聡は飛行機で搭乗して眩しそうにしてカーテンを閉める(思えばあそこから妻夫木の役どころを説明している)ところから、いい40代の役者になったなぁと思った。安藤さくらがどうして文房具屋なんだろうと考えたけど、他人に筆とキャンバスをわたして絵を描いてもらう=家族を作ることをしたい女性なのかな、と。だから自分が積極的なプレイヤー、クリエイターにならない。窪田正孝は安藤さくらの初デート?で少し高級そうなお弁当を食べてたり、ジムのリングの下で先輩と話す時にリング下にジム生の着替えと思しき箪笥が写ったり、何かと家庭的な感じの小物が印象的だった。

 とまあ、思うことを羅列したけど、劇伴の抑え方と盛り上げ方、途中 窪田正孝、ゆうとがアイデンティティの揺らぎを感じた時に後ろから追いかけるように手ブレで撮っていて、映像のリズムが本当に生理に合うな、と思った。これは「蜜蜂と遠雷」「Arc」と続けてみて思うこと。また、「Arc」のように中規模バジェットのSFじゃなくてもアートとして意欲的な何かをとってほしい。期待してます。
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