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目の見えない白鳥さん、アートを見にいくのHKのレビュー・感想・評価

3.6
全盲なのに20年以上も各地の美術館に通い続ける白鳥建二さんのドキュメンタリー。
本人は絵画の前に立っても何も見えませんから、他の人(学芸員や友人や仕事仲間など)に解説してもらいつつ、どんな絵なのかを頭の中にイメージしていきます。
この段階でまず、あ、絵画って耳で鑑賞するのもアリなのか、と気づかされます。

もちろん、頭の中のイメージは実物とは似ても似つかぬものになる可能性大ですが、そこから実物を目で見ること以上の価値ある情報を受け取れないと誰が断言できましょう。
あらゆるアーティストが自己の表現を伝えたい相手は、例えば視覚や聴覚など全てを兼ね備えた人に限定されるのか。
違うんじゃないかとこの映画は思わせてくれます。

面白いのは、同じ絵でも説明する人によって伝える言葉の情報がまちまちだということ。
人が違えば、同じ説明は二つとありません(とくに抽象画)。
だから、説明する人が2人以上いると、「私には○○に見える。だから△△の絵だと思う」「え? 私には××に見える。だから□□だと思った」などと話が食い違ってきます。
それを横で白鳥さんがときどき質問しながら、楽しそうにフンフン聞きています。

白鳥さんが「鑑賞は3人以上がいい」と言うのを聞き、実は白鳥さんは絵画を理解しようとしているというより、そこでのコミュニケーションを楽しんでいるのだとわかります。
そして、それは白鳥さんだけではありません。
絵を説明する側の人たちも、言葉として伝えることで自分の思いを確認し、相手はもちろん自身の思いがけない言葉にとまどいながらも、意見交換による発見を楽しんでいます。

これらのことは、映画鑑賞でも共通して言えます。
一人で見て何かを感じるのもひとつの楽しみ方ですが、同じ映画を見た人どうしで意見を語り合う楽しみ方もあります。他人の意見には思ってもいなかった発見があります。
filmarksユーザーはまさにこのどちらか、もしくは両方を楽しんでいるのだと思います。

器用になんでもこなす白鳥さんへの「なにごとにも根気が必要ということですか?」という問いに、「いえ、時間をかければたいがいのことはできるということです」との答え。
共同監督お二人と白鳥さんご本人の舞台挨拶付き。
コロナ禍以降、初めて両隣に人が座ったほぼ満席状態での劇場鑑賞でした。
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