ヨーク

唯一、ゲオルギアのヨークのレビュー・感想・評価

唯一、ゲオルギア(1994年製作の映画)
4.2
イオセリアーニ特集五本目。
今までイオセリアーニ作品の感想ではどれも散々緩い緩いと書いてきたが今回はドシリアスな映画であった。劇映画ではなくドキュメンタリー作品であるということもあるかもしれないが、今までのような呑気な緩さはない。だがとりあえずどんな映画だったかという感想に入る前に書いておかなくてはいけないことは、本作『唯一、ゲオルギア』は三部構成でランタイムが246分という超長尺の映画であるということだ。途中休憩があったとはいえ4時間以上のランタイムである。普段から寝ながら映画を観ている俺がそんな長尺に耐えられるのかと思ったが、そこは自分でも意外だがあまり居眠りはしなかった。トータルでせいぜい20~30分くらいだろうか。いや、俺の居眠りはどうでもいいのだが、そんな超が付くほど長い映画で何を描いたのかということが大事なのだが、それは非常に分かりやすくタイトルにもなっているゲオルギアが本作の被写体である。
ただ、ゲオルギアといってもあまり耳に馴染みのない単語だが、まぁジョージアのことですね。アメリカの州ではなくてジョージア国。イオセリアーニ監督の出身国でもあるかつてはグルジアとも発音されていたジョージアという国の数千年にも及ぶ歴史を描いたドキュメンタリーなのである。ちなみにジョージアにしろグルジアにしろその国名の由来は色々とあるようなのだが、古くからキリスト教の地であったためか守護聖人である聖ゲオルギウスと結びついてそのような国名になっていったらしい。ま、そういう一つの国家を巡る大河的なドキュメンタリー作品なのでいつものような緩々なイオセリアーニとはいかないわけですな。
んでジョージアという国はコーカサス山脈の南で黒海の東側、地政学的に東ヨーロッパの果てとアジアの西端とイスラム圏が混ざり合う要衝の地で、古くから様々な文明や文化が溶けあって支配者もその時々で変わっていくという土地であった。近年でいえばロシア帝国からソヴィエト連邦の周辺国として位置づけられ、バルト三国などと共にソ連の崩壊に際して独立を勝ち取ったという経緯がある。そういう経緯を持った国としてのジョージアをニュースなどの膨大なアーカイブとしての資料映像やソ連時代の映画作品を引用しつつ描いていくわけだ。ま、そりゃ面白くなるよなって思いますよ。
ちなみに本作は94年制作の映画らしいのだが、なんでもイオセリアーニはソ連の崩壊に伴うジョージアの内戦を目の当たりにして「もしかしたら祖国が亡くなるかもしれない」と思ってこの作品を作ることにしたのだとか。そこで描かれるのはイオセリアーニが今まで手掛けてきた皮肉を孕みながらもどこか呑気で緩さを感じる作り話ではなく、国内を二分して行われる殺し合いの様相である。それをもたらしたのはかつて超大国であったソ連の野心と腐敗と崩壊。超大国であったが故に、その崩壊は周辺国にもただならぬ傷を与えたというわけだ。
だがその20世紀末の出来事はソ連が起因ではあったが、上記したようにジョージアという国は古くから周囲の大国に振り回され続けてきたのだが、その度に戦い続けてきた国でもある。そして何度も独立を勝ち取ってきた歴史もある。もちろんいつだって一枚岩というわけではなくて、作中でも描写があるように各民族や宗教によって様々な利害の違いなどはあるのだが、時に協力ときに反目し合いながらも大国に飲み込まれて完全な同化をされないためになんとか折り合いをつけていっているのである。本作で描かれる一番重要な部分はそこではないかと思った。
スターリンなんかが映ってる歴史的な映像や眉をひそめたくなるような戦闘の映像の合間に、不意にワインを飲んでる人や踊っている人たちの映像が差し込まれて、本当に観せたいのはこっちかぁ、という気がしてしまうのだ。そう思うと最初に何だろう? と思った『唯一、ゲオルギア』というタイトルも他には考えられない良いタイトルだと思えてしまう。
コーカサスの山並みとか深い森とか川の流れとか、そういう自然の風景も凄く良かった。基本的にはかなりシリアスなドキュメンタリー映画だけど、本作のシリアスさがそういう自然に囲まれてワイン飲んで踊ることの美しさを際立たせているのだとしたら、意外と何のことはない従来のイオセリアーニ作品とそうは変わらない映画なのかもしれないと思いましたね。やっぱ屋外で飲むの好きなんだろうな、イオセリアーニ。長さはどうしてもネックだけど、いい映画だった。
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