LudovicoMed

マエストロ:その音楽と愛とのLudovicoMedのレビュー・感想・評価

1.4
《天才の苦悩を庶民的な痴情のもつれに踏襲》

第96回アカデミー賞にて作品賞含む7ノミネートを果たしたNetflixのブラッドリークーパー映画。未だネット配信映画は作品賞の前例がないにも関わらず毎年獲れそうな雰囲気だけ残し他の部門で爪痕を残す存在となっている。それだけに毎回密かに注目し続けているネット配信枠だが今年は非常に弱く『オッペンハイマー』の余り物部門においても動向が気になるのはむしろ『ホールドオーバーズ』や『バービー』の投票率であり予想しがいがある。またアニメ、視覚効果の日本勢も誇らしいことに接戦状態なので結果が大注目の部門だ。しかしそういう前哨戦セオリー抜きにしても、本作はあまりに風格がなくアカデミー賞柄の題材と顔ぶれだけで接待されたような作品だったので、これで脚本賞ノミネートはないだろと思った。ところが唯一メイクアップ&ヘアスタイリング賞が有力候補な本作はまさに見どころであり『ウィンストンチャーチル』受賞歴のカズ・ヒロによる老けメイクでブラッドリークーパーの見た事ないような顔を堪能できた。こちらも日本人活躍部門ということだが、可能性は高いと言われている。

内容に関しては全体的にドラマティックな一面が1ミリもなく天才指揮者バーンスタインの私生活をあらゆる庶民化で仕事との折り合いに悩む姿を尊く切り取る。陳腐な物語にあえてなのかもしれないがそれをブラッドリークーパーが成りきる意外性も特に面白くなく演技の上手さが分かりづらかった。

冒頭の『バードマン』を彷彿させる擬似的な1カットでシームレスに舞台上に移動する所で引き込まれたが、出会うなりアッという間に恋に落ちリア充のイチャイチャっぷりを自慢げにダラダラ語るのはなんか白ける。
しかし人生のノスタルジーパートとして採用されたモノクロの前半はあまりに美しい映像でため息が漏れた。『ROMA』タイプのモノクロ美といったとこか、舞台裏からバーンスタインが指揮する巨大な影に妻が身を投じそうになるショットとか圧巻なため、本チャンのカラーパートが始まると一気に分が悪いことになっているやん。多忙極めるバーンスタインがまだ私生活との両立が上手くいってた模様をシームレスに繋ぎ止める演出も効果的なんだが、彼の周りには常に人が居るようになり家族の時間が多いはずなのに遠くに感じてしまう。そこにいたる行間が空っぽでモノクロとカラーの使い分けでなんとなく誤魔化すのが薄っぺらいやらで。

バーンスタインはそういえば1日100本タバコ吸う超人エピソードで興味を持っていて確かに『勝手にしやがれ』級にスパスパ吸ってて指揮振る時もタバコ挟んでるしポスターアートにも。しっかり喫煙映画だったがそこはもっと誇張して異常に魅せて欲しかったです。
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