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バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト デジタルリマスター版のLudovicoMedのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

《神よりドラッグとギャンブルにしか縋れなかった暴走刑事》

アベルフェラーラ版バッドルーテナントがリバイバル公開された。本作はのちにヴェルナーヘルツォークの手でリメイクされ、いつものニコラス刑事バカ映画かと思ってたら、薬漬けで捜査中イグアナの幻覚が飛び出すガンギマリ描写にびっくら仰天して記憶に残った。当時はオリジナル版が手に入らず観れずじまいということもあり、ようやくって程度のテンションで観に行った。

するとコイツが強烈に心に突き刺さる怪作で思い当たる節のイライラを代弁するような傍ら、それが如何に惨めかと晒されてしまうえげつない倫理観の映画だった。
というのも本作で重要ファクターとなる信仰心は我々にとっちゃ中々馴染みない要素だが全編に絡めてある。それだけに他人事として距離を感じるだろうが、これを誰もが多少なりは持つ後ろめたい行動ととっくに信仰心に幻滅した主人公の苛立ちと置き換えてみたら、俗に言う"バチが当たった"と思いこむ負のサイクルから脱出できないのか?という誰にも言えないような心理を抉り出すブラックな因果応報を突きつけてくる。悪行とバチが半端なくデフォルメされてるものの、些細なつまずきや単に衝動的なイライラはどこかでリセットされることを分かっていながら感情をやりくりする。それは主人公も同じで信仰心はむしろ戯画化された不運の捌け口として観れば我に返るエピソード満載ではなかろうか。

そんな怒りのメカニズムを差し引いても、暴走刑事モノとしてまたは荒れるニューヨーク描写に自分はまず興味を惹かれた。売春、ヤクの売人、レイプで蔓延るストリート。病んだ街を猥雑な作劇で描き出しテーマ共になんともスコセッシチックな作品となってる。
主人公もまたスポーツ賭博、むき出しの性欲、そしてドラッグに溺れた刑事だ。最初学校へ送る息子に対し男根主義な説教をかます所でもう公序良俗に反したヤカラと宣言される。オッズを高めるため同僚にはメッツを賭けさすが彼は抜け駆けし密かに贔屓のドジャースに賭けていた。ちょうどこれが後ろめたさに相当する行動となるがそんな罪悪感などお構いなしに倫理的には許されない暴走を前半で描き込む。街の暗部でドラッグを入手するあらゆるルートを持っておりコカイン、シャブ、静脈注射で常時ラリってる。そんな大量服用しオーバードーズしないのか?というハーヴェイカイテルのイッちゃってるフィジカルと目つきが恐ろしく暴れ回る。

若いアバズレ女を見ると職権濫用しフェラ顔とお尻見せろと命令してマスをかく。ここで注目したいのが女は十字架の指輪をはめてる様子から、不健全極めたこんな街でも唯一教会通いの教育をされてるにも関わらず全く役に立ってないことが堕落した暮らしぶりから確認でき痛烈な皮肉となっている。そしてスポーツ賭博の借金が嵩むどん詰まり状況に突入すると全部が上手くいかない気がしてきてイライラに染まってゆく。うだつの上がらないドジャースもドンドン点を奪われるわもう我慢ならん「you Fucking Nigger‼︎」「C**t Sucker‼︎」とカーラジオを拳銃でぶっ放す。そしてやるせなくなってヴヴヴーーッと大爆笑の泣き芸が炸裂する。もちろんけしからん奴に変わりはないんだがマジで嫌になるこんな瞬間をふざけんなとちゃんと映像にするのとそれ自体を徹底的に情け無く描く。その足取りで教会へいくと今更かよ、というタイミングでキリストが突っ立っている。どのツラ下げてきたとか怒ってると、また泣き出し今度は超打ちひしがれるもんだから段々笑ってしまった申し訳なさが反比例してきて非常にアンビバレントな感情になってしまった。こんなダサいとこまで炙り出す映画あるか!しかもキリストだと思ったそれはラリった幻覚か、単に教会に来た女性だったことがわかる。やがて一連の事件の犯人を見つけ、署に連行する前に「神が許そうとこの俺が黙っちゃいない」とリボルバーを向けるいわゆる溜飲が下がるヴィジランテ的ヒロイックな瞬間が用意されるも彼は逃してしまう。自分なりの正義でもその唯一の世のためにすら成し遂げないまま彼は地獄に堕とされる。この悲惨な結末を見ると誰もが『タクシードライバー』のように輝ける訳でなく無様に腐ってある日殺される。そして立ち直れないほどの怒りがナイーブな側面を露出しその向こうに普遍性を見れる素晴らしい作品だった。そして最初はゲラゲラ笑えたあの泣き芸が心を締めつける塩梅でもってカイテルのベスト映画にもなりました。
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