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哀れなるものたちのLudovicoMedのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.2
《博士の異常な愛情によって蘇った怪物が人間性への自立を求め世界をフィールドワーク》

ヨルゴスランティモスの新作がヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲りアカデミー賞において断固たる二番手成績を維持する対抗馬枠となっている。多分無敵の『オッペンハイマー』に奪われ多くの作品が手ぶらで帰るだろう中本作はかろうじて技術部門に布石を投じる存在となっており特に衣装デザイン賞はチャンスがあると予想した。ただ一番の注目どころはエマストーンの心配になる程身体を張った演技で主演女優賞の中でも圧倒的に目を惹く。当初は彼女で決まりとフラグ立っていたが、ここにきてリリーグラッドストーンが追い上げてきたことにより勢いに曇りをみせている。今回のアカデミー賞は全体的に硬派な作品が並んでる印象を持ったが、一方でダイバーシティの気配りも大げさになってるように思えた。そんなラインナップの中異彩を放ってるのが本作であり典型的ユニバーサルクラシックモンスターの構造をランティモス流に調理した挑発的フェミニズム映画を創り上げた。てかあのランティモスが!という意外性含めファンタスティック系路線に挑戦がこの映画こっきりかもしれないなら勿体無いほど独立したフェティッシュ世界が構築できている。この手のウェスやギレルモには全く似つかないタイプの様式美な地点で評価に値するめくるめく画面を楽しめる。『博士の異常な愛情』風ロゴを意外な配置で貼り付けるセンス、ちょい人工的な色彩加工が奇妙な箱庭その癖になるビジュアルは言わずもがな特にエマストーンの着る肩が大きく重く下はミニスカやら下着っぽいズボンの衣装センスに目が惹かれた。

ヨルゴスランティモスはこれまで独占欲型異常心理が最終的に浮かび上がってくるようなエキセントリックなルールを設けられその中で人はどこまで理性的でいられるか?という物語を、風刺は遠ざけるような特殊な絵空事でもって物語ってきた。それが今回は非常に裏をかいた目線から『フランケンシュタインの怪物』のその先を脱構築してみせた。MAD外科医であるバクスターは脳を移植した結果幼児レベルの知能で蘇った成人女性ベラと生活しており我が子のように可愛がっている。ベラはバクスターをゴッドと呼んでおりまさにゴッドアンドモンスターな関係性だが、バクスターもまた狂った父から魔改造されたモンスターであり自分の手を眺めながら皮膚の細胞構造を理解しただとかどんな精神だよ、な様子から劇中最も可哀想な人物なのでは?と思えてくる。あの痛々しいメイクが実は一番関心した技術部門であった。

ベラは次第に食欲→好奇心(社交性)→性欲へと興味を持っていくがバクスターはそれと同じ順番で奪われており障害をきたしている。そしてついに彼女は外の世界を渇望し自分探しの旅が始まる。『フィフスエレメント』でミラジョボが地球上の概念をフラッシュ暗算の如く秒で学んだがベラも途中プロレタリアートのようなビジョンで押し込まれた貧困と飢餓を"上"から眺めることによって心を痛める涙があるも、大半は性に関する男女の価値観にプロセスがいく。それに独占欲型異常心理を当てはめることで、内ではなく外の世界に広がっていた数々を逆にベラが発見し疑問を投げかけるフィールドワークとなる。

お供をするのは自称世界一床上手な憎ったらしい男ダンカンによって行為の悦楽に目覚めてからは大変なことになる。濡れ場に次ぐ濡れ場でもうエマストーンの裸は結構ですってほど色情狂と化す。無垢な衝動任せに男性には耳の痛い質問を繰り出す。観ているとほんの少しセックスが嫌になってくる気持ちにすらなった生々しい貪り合いでちょっとどうしてくれんの、という意味でエマストーンの好感度爆上がりでした。
また夫婦漫才のようにコミカルなダンカンとのやり取りも丁度良い力の抜き具合になっておりしっかりアダルトな寓話に出来上がっている。

ヨルゴスランティモスはカメラを頑張っている作為ばかり変に目立って見掛け倒しのつまらなさがあったのだが、今回ばかりは映し出されるソレに見合ったカメラワークとなりランティモスの中で一番楽しめた。ただダメ出しもあって上記の評価を踏まえつつ外の世界の広がりがいかんせんバリエーションが弱い。スチームパンク風味で誤魔化されてるがほとんどディズニーシーじゃん、て感じ。美術の意欲の分歯痒さが残る。

また賛否あるだろうラストの仕打ちは倫理的にどうの、は置いといてもっと別のざまあみろ的ニュアンスの仕打ちを用意して笑い飛ばしたかったな。あと脳移植が乾電池取り替えるみたいなテキトーなギャグで全然笑えないし見せる必要なくね、と思った。
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