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ボーはおそれているのLudovicoMedのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

《今度のアリアスターは目指せポストデヴィッドリンチmeets.フロイト夢判断から奇想する家族の束縛》

前作『ミッドサマー』がここ日本では予想外のヒットを飛ばし映画ファン以外の層にもA24、アリアスターの看板を注目させたバズり映画となった。その結果一気に最重要カルト監督の支持を掻っさらい上映館も増えたウワサの新作は非常に賛否両論を呼んでいる。

まずは、語りたい要素でグチャグチャになる前に率直な私の感想は、メチャクチャ大好きだった。3時間という心配も全く苦じゃなく初めて『ヘレディタリー』を観た時のまるっきり新しい才能に無限の可能性を感じた楽しみがバッチリ叶った傑作と思えたし、クラックラするような3時間だった。

分けても今回の触れ込みはその世界観であり、悪夢、寓話、自己投影箱庭と無数に解釈可能な一方流石にしっちゃかめっちゃかすぎて呆れちまう意見にもなる。全体が映画のリアリティラインの法則が崩壊してる世界で、きわめて宙吊り感覚が強い。なんせボーが街を歩くとアサルトライフルを持ってるヤカラが平然と画面に紛れ込む地点で違和感があり、その違和感はドンドン膨れ上がる。アリアスターのありとあらゆる手数が駆使され全てが即物的に襲ってくる要領がなによりどこへ連れてかれるか分からないスリリングさがあった。

目覚ましのショットをジャンプカットで次々繋ぎ時刻だけが変化する。極度の心配症というボーの重要設定を提示すべく隣人の騒音とそれに間違われて苦情食らう理不尽を通し寝心地の悪い睡眠時の夢の感覚を見事表現した所で本作のサブプロットとなる居心地の悪い夢をずっと観てるように思わせてくれる。薬を水なしで飲んだ不安をイタズラのように水道が出ない悪意のサスペンスにされる。一刻を争うのにコンビニを挟む通りには奇人変人狂人の暴力が広がりさあ困った。なんとか潜り抜け水をがぶ飲みするもカードが使えず精算に手間どる間にアパートへ狂人らが雪崩れ込んでしまう、「あと20セント、10、5」というイタズラサスペンスが一難去ってまた一難へと息つく暇を与えない。

即物さというツールは様々に応用され活発なカメラワークのその先で厄介の種を観測、即物的に飛ぶ同一ショットのジャンプで画面の何かが入れ替わる、突然告げられる母の死などもう雁字搦めだ。特に出会す人全員話が通じないせいでスマホの連絡先しか頼れるものがない珍道中もボーの性格を肉付けており両方がぶつかった時の母の訃報電話「大丈夫、掛け直してみ」「…残念だよ」が意地悪すぎて超笑った。それと感心したのは即物的に車がフレームインし轢かれる手垢のついたクリシェを一瞬運転手側のカットをねじ込み交通事故のショックを魅せる。

これらでお分かりの通りアリアスター流シュールなコント、悪意のコメディ言い方色々できるけど笑い路線となっているがやってる事は『ヘレディタリー』の同じコインの表裏に思えます。トニコレットのヘッドバンキングや裸の人物が家に現れる異物感など今回の特筆すべき面白さはアリアスターに薄々あったデヴィッドリンチ気質を極めたアプローチにあると思える。

やがてボーは歓迎的おもてなしが故に気味の悪い半ば監禁状況で他人の家に縛られる。『時計じかけのオレンジ』から作家におもてなしされるパートを参考にしたかのような支配は監視カメラのイタズラ的悪意で不安を呼び、少年期の内面世界が錯綜され気づけば森の芝居劇にボーは同化してしまう。映画の作劇を次々変え、ついにはアニメーションにボーが融合することで別次元のレイヤーが侵食してくる入れ子を呼ぶ。そこでは深層心理のエリアから家族に束縛されてる/してるストレスについて触れていく。後半戦は極めてアリアスター映画のトレードマークである家族のトラウマをボーに踏襲させ、いわゆるフロイトの夢判断(考えてはいけない事やその人の不安が投影された映像化)に基づいて母の狂ったようなエゴと対峙していく。それに伴い物語が怪奇げに転がってくのに対しコンセプトがドンドン説明的になってくため勿体無いと思いながらも、その度を超えたアリアスターの執着心はどうしても嫌いになれない蛇足と考え直した。だからバランスを欠いて説明的にしてても、そこだけはハッキリ地獄をシェアしてやろうという開き直りがエゲツないラストに繋がりアリアスターの文字が出た瞬間、なんて終わり方すんだと異様な読後感に包まれてしまった。

アリアスター映画なんでそう思う一方で、むしろ心配症だったのは母親の方なんじゃない、とも感じる。説明的になったパートから読み解くと親離れ子離れのタイミングが上手くいかず引きずった関係性に見えつつ実はヤバいのはボーの方であって夢判断から構築された世界観が主観と客観を逆転してるせいで母親側がボーの何らかの精神疾患に束縛されてる事情が見え辛く描かれてるように見えます。どちらにせよ我々の理屈がまかり通らない悪夢を日常から降り身をやつしてゆくでなく、母体から出た地点でこの世は恐怖に満ちてる性悪説に圧倒されるばかりだった。

ビジュアルも面白い試みが多く、プールの底から見上げるショットや顔面に照明を赤、青、ノーマルとグルグル照らす演出などなどで申し分ない作品だった。
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