YACCO

PERFECT DAYSのYACCOのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
今年最後の映画鑑賞として本作を鑑賞。今作にして本当に良かった。
ヴィム・ヴェンダース監督の映画は「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」以来だったことに気づいたときは自分でも驚いたけれど、今作でも流れる音楽にヴィム・ヴェンダース監督のセンスが光る。(思わず、帰り道気になった曲をダウンロードしてしまったのは私だけではないはずだ)

役所広司演じる、多くを語らない男、平山。
口数少ない平山の表情を読み取ることで見る側は彼の気持ちを理解する必要があるのだが、なぜか見ている側が実にすんなりと彼に共感できてしまう。本当に不思議なくらいに平山の感情の機微を見ている側は無理なく我がことのように感じることができてしまい、気づけばこの映画の世界に引き込まれていた。(こんなに台詞が少ないのにカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を役所広司受賞したのも、きっと同じことを感じたからに違いない)

本作は始まりから終わりまで、トイレ清掃員として働く平山の日々が坦々と描かれていく。
近所を掃除する箒の音で眼ざめる朝。ルーチンのような身支度に始まり、缶コーヒーを飲み、お気に入りのカセット聞きながら仕事に向かう。時折空を見上げたり、その瞬間を写真(それもフィルムカメラ)に収めたり。仕事が終われば、銭湯に行き、行きつけのお店で食事をして、帰宅すると眠くなるまで本を読む。休みの日には趣味のカメラを楽しんだり、自転車に乗る姿からは、決して派手ではないけれど日々を大切に慈しむ様が感じられる。
しかし、そんな平山の単調で満ち足りた日々に、ほんの少しの変調が起こり始める。それは、周りから見たら変調とも言えないような些細な事かもしれないけれど、単調でありながらも満ち足りた日々をそれらは損なわせるものとなる。

ニーナ・シモンの「フィーリング・グッド」が流れるラストシーンは、見ている私も感情が混濁した。平山を見て何を思うべきなのか。平山は何を思っているのだろうか。そんな思いで彼を見つめ、そして彼のことを考えていた。心を揺さぶられるラストシーンだった。
今年最後の映画鑑賞でとても素敵な映画体験ができた。
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