クリストファー・ノーランが「原爆の父」と呼ばれる理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの映画を作ると知り公開したら見たいと思っていたところ、アカデミーでの評判もよろしく、いかがなものかと楽しみに公開初日に鑑賞。
そもそもオッペンハイマーというひとりの男性についての知識が乏しく、もっと彼について詩っていたらより深く楽しめたのかもしれないと思ったが、180分という上映時間を長いと感じることなく、彼の人生に魅せられた。
本作「原爆の父」というフレーズがフォーカスされているけれど、これは、大量殺人兵器を作り世に解き放ってしまった男の半生を描いている映画で、原爆投下についての直接的な描写はなく、原爆投下の正否を問うたり、彼の行いを断罪する映画ではない。
オッペンハイマーは、ソ連のスパイ疑惑を受けて聴聞会で追及を受けることとなる。これはオッペンハイマー事件と呼ばれているらしいのだが、私は知らなかった。
それもこの事件、仲間だと思っていた男の裏切りによるものなのである。この背景にある事情がひどく幼稚なものに私には思えてしまったのだが、一方で、人とはこんなものなのかもしれないと、なんだか腑に落ちた気もした。これについては、鑑賞後にストローズを演じたロバート・ダウニー・Jrが、サリエリのような振る舞いを意識したとインタビューで語っていたと読み得心した。なるほど、そういう事かと。
オッペンハイマーは原爆を作り出し、広島と長崎に投下された後、その事に苦悩する。そして、水爆開発に反対するようになる。それは、これまでの彼の人生を否定する行為にも等しく、彼は世の中から見放される。日本人の私としては、オッペンハイマーが苦悩したことに、幾分救われた気がしたものの、果たして多くの人の目に彼はどう映っていたのだろうか。
この映画に様々な声があがっているようだが、日本以外の国々がこの映画を見てなにを思うのか。それがいささか気になった。
