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愛にイナズマのYACCOのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
4.0
石井裕也監督映画(それも脚本・監督の映画)を久しぶりに鑑賞。
予告編とキャストを見て久しぶりに石井裕也監督映画を見てみようと思ったのだが、ハマった自分がいた。
これは勝手な感想なのだけれど、以前より自分自身のなかにあるものにフォーカスし、それをもとに物語を紡いているように感じた。
10年ほど前に見たのが「船を編む」であったり「ぼくたちの家族」と原作があるものだったからかもしれないが、この人はやはり自らの脚本を監督する方が(当然のことかもしれないが)、世界観が濃く、らしい映画を見せてくれるように思う。
(そういった意味では「月」はどんな解釈で描いているのか気になるところではある)
映画監督とその家族を描いた物語。と設定についても、石井監督の本領発揮といったところだったのかもしれない。
冒頭から切り取られる風景や出来事。それを「ありえない」と一蹴する人間たちや、人や人の気持ちを搾取する今の社会のありよう。
ああ、心が痛い。でも、この冒頭に心が痛む人はおそらくこの映画に向いている。
そして、松岡茉優演じる花子が実家の父親のもとへ窪田正孝演じる正夫と帰省するところから、この物語は大きく舵を切り動き始める。
映画監督の花子が映画を撮ることを目的に始まったはずが、徐々に欠けていた家族たちが集まってくる。
実家を出て暮らす兄弟家族なんて、知っているようでお互いのことなど知らないものなのだ。そして、各々互いにさらけ出せないものも抱えてもいる。
それらが垣間見えてきて、互いの心に押し込めていたことを共有していくうちに、血の繋がった他人が、血の繋がった家族へと戻っていく。
そんな家族に起こるイナズマが落ちるような嵐の夜の出来事。(この映画はタイトルにあるように、イナズマは大切な演出のひとつになっている)
その頃には、この家族が愛おしく思えてくる自分がいた。
今の社会は、搾取されたり、生きるために自分の大切な何かを曲げることを余儀なくされたり。
だけど、それに抗って生きようとする根底には、そしてそのパワーの源となるのは、自分を思ってくれる人たちの存在なのかもしれない。
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