たにたに

PERFECT DAYSのたにたにのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.8
✨2024年11本目✨

➖追記➖ 2024/2/25
少し時間をおいて。
この映画に対して、電通が絡んでいることでどこかきな臭いイメージを持ったり、美化されていて現実的ではないなどの意見を見たり聞いたりすることがあります。
確かにそのような目に晒されしまうのも仕方のないことで、金銭的な邦画界の限界を示しているのかもしれません。

しかし、ヴィムヴェンダースが日本の一広告企業に利用されるような人間ではないと私は信じたい。
彼はそうゆう穿った見方をしてしまう人々に対してのメッセージを送っている。それこそが本作品の狙いだと思うのである。

木漏れ日というのは、一瞬のきらめきであり、気にも留めていなければ気づかないことである。しかし普段我々は、当たり前のことの中にきらめきなど求めようとはしない。

学校のトイレを、ショッピングモールのトイレを、公衆トイレを、誰が清掃しているか気にする人はいないでしょう。
作中では、平山が触れた子供の手を母親がすぐさま拭いたり、JKが邪魔なんだけどみたいな、汚いとか見下したような人々が出てくる。
でも快適にトイレを利用できているのはそのような顔も合わせない人々のおかげである。それを我々は忘れてしまってるのではないでしょうか。

つまり、木漏れ日というのは木々の揺れる姿や擦れる姿を表すだけでなく、人にも存在するものだと思うのです。清掃員が清掃するのは当たり前だけど、その中に平山のように誇りを持って働く、そして輝く人もいるということを忘れてはいけないんだよ。と伝えたいのではないでしょうか。

コロナ禍を経て人との接触が希薄になってしまった今、人に対する冷たい視線がより明確になってしまった。ヴィムヴェンダースはそれを問題視しているのではないかと思うのである。

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泣きました。
役所広司に泣かされました。

小津安二郎リスペクトのWWの視点で現代の東京を描いた今作。
今の東京を象徴するスカイツリーは作中で幾度と映し出される。歴史ある下町の中にそびえ立つ近未来なその高い塔は、平山にとっては眼中にない。上を見上げる時は空や木漏れ日を感じるときなのである。

トイレ清掃員として働く1人の男は、その変わってしまった下町の景観の中で、逞しく生きている。

🟢変化に気付くということ
我々の今生きてる環境はめまぐるしいスピードで変化している。新しい情報が次から次へと更新され、街の風景も変わっていく。
何か自分も変化しなきゃいけないんじゃないかって社会から環境から言われているような気がしてくる。
変わらないことはどうも"不幸である"とか"怠惰である"という印象が付きまとうようになってしまった。

平山に対する、他者の目線はそうなのだ。
"平山さんって結婚しないんですか?"
"ほんとうにまだトイレ掃除やってるの?"

結婚することや、社会的に地位を得られる仕事に就くことが、良い変化だと捉えられる。平山にとっての変化とはなんだろうか?

平山には日々のルーティンがある。
朝起きて窓の外を見て、布団畳んで歯磨きして髭剃って、植物に水やって、着替えて玄関に並べてある必需品ポケット突っ込んで、外出て空見上げて、自販機で缶コーヒーを買って車に乗ってカセットテープ流して仕事に出る。銀座の地下にある居酒屋でいつものメニューを頼む。綺麗なママのいるスナックに行ってお酒を呑む。

そこには、いつもと変わらないことの安心感を漂わせながら、"今を"生きていることの幸せを感じさせる。
そんな折に、いつものルーティンの中でふとした瞬間の変化がある。

久しぶりに会う家出してきた姪っ子の成長。
トイレにある◯✖️ゲーム。
公園にいるホームレスのおじさん。
お寺のベンチでOLさんがサンドイッチを食べている。

常に我々は変化の真っ只中にいる。

平山は言う。

🟢今度は今度、今は今。
今度という未来は、今からの変化の結果に過ぎない。今という一瞬は、もう訪れないのだから、彼は今をどう感じるかで生きている。
今度なんてわからないよ、今度は今度だ。

今この一瞬、
良くも悪くも、外的な変化が内面へと飛び込んでくる。つまり、我々は"変化から逃れられない存在"なのだ。

「変わらないなんて、そんなことあるわけないじゃないですか。」
平山のこの言葉には、変化から逃れられない運命を人間が背負っていることを含んでいるのではないかと思う。

平山にはきっと何かしらの後ろめたい過去がある。後悔や挫折。
変わろうとしたけど変われなかったのかもしれない。

でも時代も環境も街も人も変わっていく。
朝日が登り、また新しい1日が始まる。
泣きたいこともあるけれど、だけど笑ってそれに抵抗していかなければならない。

変化していくことを前向きに捉えて、今を見つめる大切さを知れたような気がする。
たにたに

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