Ricola

乱れるのRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

乱れる(1964年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ラストシーンの高峰秀子の表情が未だ脳裏にこびりついている。

人間や社会の嫌な部分が赤裸々に描かれており胸が痛くなるが、そんな中で主人公二人の真っ直ぐ生きる様子を観て余計に切なくなる。


未亡人とその義理の弟の恋。
禁断の愛といっても、恋愛のもどかしさやいじらしさがが細やかに描かれており、明らかに純愛物語であった。

夫に死なれて十年以上経つのに、嫁ぎ先の商店をほぼ一人できりもりする礼子(高峰秀子)。
商店は最近できたスーパーマーケットに押されており、スーパーの宣伝車の騒々しさにもそれは表れている。

商店の運営だけでも大変なのに、とっくに家を出ていった義理の妹たちが礼子の再婚や商店について口出ししてくるのだ。

この二重苦に耐えながら礼子はなんとか生きているわけだが、何も文句を言わず前を向いて頑張る健気な姿がなんとも切ない。

そして義理の弟の幸司。若者特有の刹那的な生き方をしているが、母や姉たちからあきれられている。
しかしその理由が、礼子への恋心を押しつぶすためであったのだ。

帰るのが遅いからご飯に布をかけて待ってくれている優しい礼子。
彼女への気持ちをついに爆発させ、ストレートに胸の内を告白する、その真っ直ぐさがかっこいい。

しかし二人の運命が傾くこととなり、逃避行となってしまう。

列車内で隣りの客が眠っていて礼子によりかかってしまうのを、幸司は何度も気にして席変わろうかと言うその優しさにキュンとする。
列車が停車中に駅のホームで立ち食い蕎麦を食べていて、早くしなさい、と礼子が手まねきをする。それに対して幸司は微笑んで蕎麦をかきこみ、そそくさと列車へ戻る様子が愛おしい。

だけど、普通の恋人同士のような甘い時間が期限付きであることが前提として、二人のこういった幸せそうな様子が丁寧に描かれているのである。
もはや残酷にさえ感じる。

そして何よりもラストシーン。
あっけなく散ってしまった許されぬ恋であったが、彼らの心の結びを意味するであろう「指輪」だけはちゃんと彼の指にくくられていた。

ラストショットの、あえてあまり余韻を残しすぎない歯切れの良さに、より喪失感とやるせなさを感じる。

社会問題もちゃんと組み込まれつつ、主人公二人の心の機微が細やかに描かれており、特に後半から心が常に揺さぶられる。

ずっと引き込まれる観ごたえ抜群な傑作だった。
Ricola

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