愛鳥家ハチ

グランツーリスモの愛鳥家ハチのネタバレレビュー・内容・結末

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ドルビーシネマで鑑賞。冒頭のNSX、サーキットでのシークエンスからテンションと期待感は最高潮に。エンドロールまでワクワク感はとどまるところを知らず、体感爆速の2時間でした。レース中の内燃機関の描き方や良し。正しく描かれた東京や良し。

ーー理解者
ヤンとジャックの関係描写も秀逸でした。周りがスローモーションになる状態、「直感だけは教えられない」というジャックの言葉、突き詰めた者たちの間でしか共有できない感覚は確かにあるのだと思います。また、東京でヤンは「友」のためにWALKMANを買いました。ヤンにとってジャックはドライビングテクニックを教える師匠であるのみならず、心を許した存在でもありました。大きな事故を経験したことも二人の共通点であり、ニュルンベルクリンクの事故現場での対話は胸を打ちます。ジャックはヤンの師であり友であり良き理解者でもあったといえましょう。熱い絆。
(なお、初めはキツめで徐々に打ち解けていく過程は『グランツーリスモ』の対抗馬である名作ゲーム『R4』に出てくるレーシングチームRTSのエンキ監督を彷彿とさせました。)

ーーシムレーサー
ゲーマーがリアルレーサーになるなんて信じられないという意見もあります。私も鑑賞後は「事実は小説よりも奇なり」という感想が浮かびました。しかし、そもそもシムレーサーのシムは"シミュレーション"のシムであり、グランツーリスモは高度に進化したカー・シミュレーターです。精緻にシミュレートされた世界の中で勝てる素質、すなわち瞬発力、状況判断力、勝負強さ、直感力が備わっていれば、現実のレースでも勝てる…至極真っ当な発想ともいえます。GTアカデミーの理念は、ヤン・マーデンボローの戦績が実証しています。
 仮想世界で何千回もコースを走り込んだ成果として、リアルなレースでも抜き去るラインが可視化されるという演出は見事でした。作中では「シムレーサー」がある種の煽りワードとしても使用されていましたが、むしろ仮想世界で鍛え抜かれた戦士の称号とみるべきではないかとすら思います。

ーーあの曲
グランツーリスモは2023年現在、ナンバリングタイトルのみで「7」まで出されています。そしてそれらのオープニングで用いられている楽曲が"Moon Over the Castle"です(海外版の例外あり)。確かに本作でも同曲はほんの一瞬使われていましたし、エンドロールにもしっかりとクレジットされていました。しかし、個人的にはもう少し使いどころがあったのではないかと思う次第です。実体としてはヤン・マーデンボローの伝記映画であったとしても(彼の伝記映画としては100点満点です)、『グランツーリスモ』の看板を掲げた以上はガツンと"Moon Over the Castle"を演出に組み込んでほしかったというのが正直なところです。それ以外の完成度が極めて高いために、画竜点睛を欠くとでも言いましょうか、とてもとても勿体ないなと感じました。それ程までにこの曲はシリーズを通じたいわば心のアンセムとでもいうべき存在です。

ーー総評
長々と書きましたが総じて素晴らしい作品であり、非常に楽しめました。グランツーリスモというコンテンツとニール・ブロムカンプ監督という才能の相乗効果を映画館で体験できてよかったです。
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