sleepy

女王陛下の007のsleepyのレビュー・感想・評価

女王陛下の007(1969年製作の映画)
4.4
ノーラン監督がリスペクトする屈指の傑作 ****




誰でもわかるシンプルな物語、クレイグ版と通じるエモーション。このボンドがわからないなら007映画を観なくていい。傑作。

ビザールな007(それはゴールド・フィンガー~007はニ度死ぬ、で一旦確立する)の対極にあるシリアス007の傑作。3回観てしまった。本作は5作目までにはなかったいろいろな初めて、が描かれている。上司Mの私宅が描かれる。原作にはあるのかも知れないが意外な趣味。ボンドの専用部屋が出てくる(ある人の写真がある)。そして初のスロー・モーションの使用。初のフラッシュバックの使用(いずれも音声解説より)。ボンドが真意から婚姻する。

シリーズ中屈指のアクション・シークエンスである雪がらみの見せ場がすばらしい。スキー、雪のアクションは「私を愛したスパイ」「ユア・アイズ・オンリー」「美しき獲物たち」「リヴィング・デイライツ」でも描かれたのはご存じの通り。そして監督の初監督作(ハントは前にいくつか007で第二班監督・編集に携わっていた。本作の第二班監督・編集のジョン・グレンはハントをなぞるように以後も参加し、本作の態度を引き継いだ「ユア・アイズ・オンリー」で007を初監督する。本作のアクションの多くはグレンが監督)

アクション・シーンが比較的狭い範囲で行われ、そのために活劇に一体性・連続性がある。世界を股にかけないボンド。前半のタメもすべては後半アクションのため。1時間半あたりから小休止を挟みながらもアクション45分。前半では(解説にあるように)ヒッチコック・ライクな編集が見られ、娯楽作中においては充分かつ的確な描写が飽きさせず、アクション以外をないがしろにしない。いや、むしろ静あっての動。それ故か巨大なセットとか、ド派手な活劇とは少し違うがスペクタクル性を感じさせる演出。夕陽を背景に飛ぶヘリ・・。殴り合いシーン多し。

そして名シーンがたくさんある。27分から30分あたりのボンドとMとマネペニーの件はいいなあ。結婚式のやりとりもいい(本作はマネペニーの存在感がベスト)。そしてボンドとトレイシーのデート場面はそれまでのボンド映画にはない甘いテイスト。ここに被さるサッチモの挿入歌「We Have all the Time in the World」がバッチリ合っている。

トレイシー(ダイアナ・リグ)の父ドラコは表向きは巨大企業のトップ。裏ではスペクターと張り合うコルスのドンだが、一人娘には弱く、溺愛する父親ぶりが人間臭い。ボンドと利害が一致し、また、娘婿として協力関係を結ぶ。クライマックスでは、ボンドと犯罪組織コルスの協同奇襲作戦でスペクターに立ち向かい(これもシリーズ初と思う)、いやがうえにも盛り上がる。ラストも「カジノ・ロワイアル(クレイグ版)を思わせて哀切。

また、コーエン兄弟の「ファーゴ」で引用されたシーンもある。日本ではなじみのない紋章院というものが重要な役割を果たす。こんなのが西洋にはあるんですね。小さなセリフが微妙な伏線になる作劇もうまい。また600年前のボンドの祖先の話も出てくる。

バリーの音楽はロマンティックかつ、活劇シーンではスペクタクルを感じさせ、出色の出来。またメイン・ボンド・ガールではないが、「ピンク・パンサー2」でクルーゾーをいろいろ転がした美しきカトリーヌ・シェル嬢が出ているのも嬉しい。

お書きの方がいるようにクレイグ版「カジノ・ロワイアル」と作風は類似している。シリーズ大ファン以外の人の中で、もし世評が理由で未見の方がいたら是非に、と申し上げたい。

★オリジナルデータ:
The Night of the Generals, 1969, UK, Theatrical aspect ratio 2.35:1(Panavision (anamorphic) ,Eon Pro./ United Artists, 142min,Color (Technicolor), Mono, 35mm
sleepy

sleepy