ヨーク

劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100のヨークのレビュー・感想・評価

4.0
『ほんとにあった!呪いのビデオ』といえば20年以上前からTSUTAYAとかでよく見かけるホラーもののビデオシリーズで、本作はその劇場版ということなんだけど『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』というタイトルからも分かるようにシリーズ100本目ということらしい。祝100本ということでの満を持しての劇場版なのであろう。いや凄いよね。100本て! そんなにやってんのかよ! って感じですよ。いや『こち亀』じゃないんだからさ…。でもそれだけ続くってのはネタ的にもそうだし(多分全部見たら結構被ってるネタもあるんだろうが…)売上的にも一定ラインは越え続けてるってことだろうからやっぱ凄いよなと思いますよ。
ちなみに俺は『ほん呪』シリーズ(こう略すらしい)はTSUTAYAで5本で1000円とか10本で1000円みたいな感じで借りるときに数合わせで何となく見たくらいの経験しかない。多分100本中5本も見ていないだろう。そしてその数少ないながらも見た数本もどんな内容だったかは全く覚えていない。だって俺が最後に『ほん呪』シリーズ見たのって15年以上は前だからね。シリーズのナンバリングも20くらいしかなかった頃ではないだろうか。というか、多分姉妹作的な関係であろう『ほん怖』シリーズと勘違いしている節もあるくらいだ。多分どっちも数本は見ているはずなのだが。
ともかくそれくらいのスタンスなので、ぶっちゃけ俺は『ほん呪』シリーズには何の思い入れもない。ちなみに『ほん怖』の方も同様である。そんな俺が本作を観たわけだが、いやこれがびっくりするくらい面白かったですね。大げさでもなくここ数年の和製ホラーの中では一番面白いのではないだろうか。先日『ミンナのウタ』が良かったと感想文を書いたが本作もめちゃ良かったので今年は和ホラー豊作年じゃないですかね。あとは中田秀夫の『禁じられた遊び』も続いてくれればいいのだが、まぁそれはまた別の話。
本作『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』はフェイクドキュメンタリー的なタッチで進行していくのだが、事の発端はママさんバスケの試合の模様から一転不気味な儀式(?)のような映像が始まるビデオが投稿されてきたことから始まる。シリーズ立ち上げ時にディレクターをしていて現在はシリーズのナレーションを務める中村義洋がそのビデオを見て「24年前の『ほん呪』開始時にも似たようなビデオが投稿されてきたことがある」と言い出したのだ。しかも当時のものとはビデオの内容が若干違う。アーカイブを探してみると中村元Dの記憶は確かであったので、これは面白い…となった番組スタッフが新しい投稿者と過去の投稿者に接触して調査をすることに。そしてそこから見えてくるビデオの真実とは…。て感じのお話。
極力ネタバレを廃して感想を書くならば、本作は、まず全体的なストーリーの構成が非常に巧い。巧い、ではなく非常に巧いのだ。いやこれはちょっと舌を巻いたね。呪いのビデオの調査を進めていくとスタッフや投稿者に異変が起きて体調が悪化したり…なんてのは心霊ホラーではありがちな展開だが、本作ではそれも作中の重要な要素として後の展開へと繋がっていく。そしてその本作の中核を成す要素というものが、民間信仰的な思想や儀式へとも接続されていくのだがその過程でビデオの中の映像が意味するものというのが変容していく様が実にホラーなのである。特に和製のホラーの代名詞と言ってもいいような表面的な怖さではなくてじわりじわりと滲み寄られて、その怖さの正体を理解していくにしたがって恐怖の深度も増していくという仕掛けになっているのである。
これはもう天晴な心霊ホラーでしたね。怪談話としての出来が非常に高い。正直、その構成が上手すぎるが故に物語っぽさがあって怖さが減ってしまっているのではないかという気さえするほどよく出来ている映画だった。ここまで出来の良いシナリオならフェイクドキュメンタリー風ではなくていっそ普通に劇映画にしてしまった方が良かったかもしれないとも思ってしまう。でもドキュメンタリー風であるからこそ刺さる部分もあって、そこも良かったので何とも言えないなぁという気もしますが。当然ネタバレになるから詳細は伏せるがゾクりとするオチも綺麗に決まっていて良かったですね。
ちなみに本作は上記したように、うぉぉ! 怖ぇ! ってなるようなタイプのホラーではなくて徐々に締め上げられていく怖さなのでジャンプスケア的な怖さはない。個人的にはジャンプスケアがダメだとは思わないけど(それ一辺倒になるのはダメだが)それに頼らない作風でちゃんと恐怖を描くというのはとてもえらいと思いますね。ただ、その分じっくりと恐怖を描いていく作品なので怖さの瞬間最大風速的なものはそこまで高くはない。そういった瞬間的な怖さという部分は先日観た『ミンナのウタ』の方が勝っていたとは言えるだろう。まぁどっちも面白いホラー映画だったとは思うけど、怖い物語を提供するという意味ではその完成度は本作の方が二枚は上手だったと思いますね。
とにかくホラー好きな人なら見て損はない作品だというのは間違いない。劇場で観る機会は少ないと思うけどチャンスがあれば是非。そうでなくてもレンタルや配信でもいいから多くの人に見てほしいなと思う映画でしたね。ちなみに中村元Dのヘタレっぷりはかなり笑えるので客席は結構笑いが絶えない感じでした。その辺も面白かったな。
ヨーク

ヨーク