『おとなの事情』パオロ・ジェノヴェーゼ監督の新作。上海映画祭コンペに出品された。人生を諦めた四人のもとに現われた謎の男を名優トニ・セルヴィッロが演じている。

完全な商業映画だがこれはこれでいい。『おとなの事情』をはじめエンタメ映画に定評のあるジェノヴェーゼ監督の手腕が遺憾なく発揮された作品を言えよう。

人生に絶望した四人、それぞれの事情を一週間にわたって描き出していく。大食いキッズYoutuber、娘を亡くした警察官、怪我をした体操選手、自己啓発を発信する男、それぞれが自らの過去を振り返っていく。

猶予を与えられた一週間の間で彼らは希望を見出すことが出来るのか。仲介役たる謎の男の正体とは。

よくある話ではあるが、エンタメ映画としてなかなかよく出来ていると思う。トニ・セルヴィッロをはじめ役者もみな魅力的。

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人生に絶望した者たちを再生させるのは容易なことではないはず。奇妙な体験を共有した者たちの間に緩い連帯感ができていくことこそが救いの鍵になるのではないか？と考えながら見ていた。
人生は長く生きていれば様々なことが起こる。だからこそ男(トニ・セルヴィッロ)が各人に見せる映像が威力をもつ。ローマの街明かりを一望しながら4人に語る説教は沁みた。
このテーマでも明るいファンタジーにならず思いきり苦みの効いた人間ドラマになっていたのはイタリア映画ならでは。いつも鬱顔なトニ・セルヴィッロがこの作品のトーンを作っていたと強く感じる。V.マスタンドレアの役処(ナポレオーネ)も大きい要素。同じく彼が主演の「ザ・プレイス」をちょっとだけ想起した。

字幕翻訳は関口英子氏。

• #イタリア映画祭2024オンライン上映

パオロ・ジェノヴェーゼ！ああ愛するイタリア監督である。演劇的な技法からどんどん映画的な技法に挑戦している印象があるが、今作はいよいよ映画的な作り方になったのではないか。
自殺した4人がセルフヘルプグループのように互いの死んだ世界を見ていくことで死を考える、転じて生を考える。時間を操るイタリアの魔術師は今回は時計をどう動かして「不可逆性」を表現するのか、とくとご覧いただきたい。


イタリア映画祭2024にて「人生の最初の日」「僕はキャプテン」感想
https://tea-rwb.hatenablog.com/entry/2024/05/07/123000

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