ヨーク

シャーク・ド・フランスのヨークのレビュー・感想・評価

シャーク・ド・フランス(2022年製作の映画)
3.9
サメ映画2連発! ということで先日感想文を書いた『MEG ザ・モンスターズ2』とハシゴで観たんだけど、いやー! 面白かったですね。これは素直にいいサメ映画だったです。サメ映画としてストレートに面白いだけでなくちょっと予想を裏切ってくる(良い意味でだが)作風だったのも良かったですね。
フランス国旗を模したトリコロール・カラーのポスターが目を引くこの『シャーク・ド・フランス』だがそのポスターの洒落ていながらもどことなく緩い感じの印象からコメディ色の強い映画かなと思ってたんですよ、俺。そうでもなくてもサメ映画ってここ10数年くらいはいわゆるネタ映画的なものばかりじゃないですか。B級どころかC級どころかZ級でも言い足りないくらいのサメが宙を舞ったりテレポーテーションしたりするようなやつもザラにあるようなジャンルになって真面目にサメが人を襲う映画としてのサメ映画を観ている人なんてほとんどいないんじゃないだろうかというジャンルになってしまった。まぁそれはそれで別にいいしそういうの好きな人が観ればいいと思うんだが、そういう方向性だけで突き詰めていくとジャンルとしてはどんどん先鋭化して好きな人しか観なくなるという先細りになってしまうというのもあろう。
そこでこの『シャーク・ド・フランス』ですよ! なんとこの映画、サメが空を飛んだりワープしたりしないし雪山に潜んでいたりしないしビームを出したり頭が3つもあるサメが出てきたりもしない。当然幽霊のサメとかタコみたいな触手を持ったサメとかも出てきません。いやお前ら全部サメじゃないだろ!! ちなみに本作に出てくるサメはホホジロザメかオオメジロサメかどっちかだったと思うが、どっちにしろ現実にいる種で全長も5~6メートルとかそのくらいの大きさだったと思う。あまりにも普通のサメだ。直前に観た『MEG2』のバカでかいサメとは大違いで、それくらいのサイズのサメが死傷事故を引き起こすというの全世界で見れば毎年数件くらいはあるのではないだろうか。普通だ。普通のサメ映画だ。
でもそれが良い映画でしたね。本作は明らかにサメ映画の金字塔であるかのスピルバーグの『ジョーズ』を下敷きにしてオマージュしまくっていると思うのだが、お話はのどかなビーチくらいしか特徴のないフランスの平和な田舎町が舞台で主人公のババァ(とは言っても50歳代だったと思う)が地元の警察官として海上警備も行っていたのだが早期退職をする数日前に人食いザメが現れてそのサメを仕留めるために奮闘するというもの。至極真っ当なサメ映画である。
ただ上記したように一見コメディっぽい印象とは違った映画で、人食いザメの存在を主人公以外の町のみんなが信じない序盤の方こそ軽いノリのコメディっぽさもあるのだが、ある展開を経た中盤以降はシリアスもシリアス、ストイックに犯人を追跡するハードボイルドな刑事ドラマの如くババァVSサメが描かれるのである。そしてそこで描かれるのはババァVSサメだけではなく人食いザメの恐怖によってヒステリックに変質してしまった田舎町の姿でもある。基本低予算だからサメはいっぱい出せないという事情もあろうが、むしろそっちがメインとして物語は展開していき、そのなかで孤立していき最終的に殺人サメと向き合うしか生きる意味がなくなるほどに追い詰められるババァの姿が描かれる。
まさかそんな渋い映画だとは思わなかったよ…。退職した後も治安を守る警察官としての矜持を持ちながらも、主人公に無理をしてほしくない家族との板挟みになる葛藤。日本でも度々あるが熊害などが起きたときに、感情としてはできるだけ殺処分はしたくないが人間社会に害をもたらすのなら致し方ないという人間と自然とのシビアな関係性。そういったものが非常にハードで渋いタッチで描かれるというとても見応えのある映画でしたね。終盤、覚悟を決めた主人公が海中で自分の手の平をナイフで切ってサメをおびき寄せるシーンのババァの格好良さったらなかったね。
奇をてらったヘンテコでバカなサメ映画も結構だけど、初心に戻って真面目にサメと人間の関係性とその対決を描いた本作はとても良かったですよ。草分けである『ジョーズ』を例に挙げるまでもなく、サメ映画などというジャンル化がされていなかった頃のサメ映画の方が真剣にサメに向き合っていたのではないだろうかと思う。そういう意味では本作はあまりにも迷走しすぎているサメ映画界に一石を投じる映画なのではないだろうか。
面白かったですよ。サメ映画マニアとかじゃなくて、むしろそういうジャンルとしてのサメ映画に興味ない人の方が楽しめるかもしれないですね。もちろん、サメ映画マニアの人も自分の胸に手を当てて色々と考え直す機会になると思うので是非オススメです。
あと主役のババァに見覚えあるなと思っていたら『ヴィーガンズ・ハム』のイカレたババァを演じたマリナ・フォイスだったんだな! 後で知ったんだけどこのキャスティングは笑ってしまった!
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