映画大好きそーやさん

アキレスと亀の映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

アキレスと亀(2008年製作の映画)
3.7
北野武監督が手掛ける、「芸術」、「葛藤」三部作、完結作!
『首』が北野武監督作デビューだった私でしたが、次に『Kids Return キッズ・リターン』を観て、その後に観たのが本作でした。
乱雑な順番で鑑賞しているので、監督が提唱した「振り子理論」を享受できていないという、非常に勿体ない見方となっており、そのことを今になって後悔している所存です。
順番通りに観ることで得られる面白さ、興味深さがあっただろうと思えるあまり、これ単体でもかなり楽しめてしまったことが悲しかったです。
勿論、作品はそれぞれ作品ごとに考えていく、受け止めていくことは当然のこととして捉えていますが、それはそうとしてもそういった見方のできる作品群である以上、120%で味わえた作品だったところを100%で味わったことになる訳ですから、残念に思わざるを得ませんでした。
さて、前置きはさておき、本作は私自身が創作を齧っていることもあり、全編を通して共感と凶器に満ちていて、血だらけになりながらの鑑賞を余儀なくされました。
幼少体験は私たちに歪な種子を植え付けて、その後の人生を強く束縛してきます。
自分では左右されていないように思えても、結局原点からは逃れられず、戻ってきてしまうのです。
幼少体験とは異なる文脈ですが、『Kids Return キッズ・リターン』においても輝かしい記憶の呪縛に囚われて(こちらの方では良いものとして切り取られていますが)、原点へと回帰し物語は終幕と相成ります。
意匠は違えど、やはり根幹には同じ血が流れていると感じさせられるような気がしましたね。
本作を語る上で欠かせない要素として、「死」は大きなウェイトを占めていると思います。
主人公である真知寿の周りには、常に「死」が匂うどころか直接的に描写されていて、観ていて本当に辛くなります。
安易に救ってほしくはなかったですが、どうにかして希望をみせてほしいと願わずにはいられなくなるほど、その淡々と綴られていく近しい人たちの「死」が、心に痛く響きました。
それは偏に、一連の「死」の描写が決して他人事ではないと思えてしまったからです。
「芸術」分野における成功は、作中でも言われている通り、才能が決めるものではありません。
しかし、多くの成功者に共通するのは、元来より才能があったということ、その前提のもとにその立場が成立しているということです。
才能のない者は、時の運で1発当てることはあれど長続きはせず、そんな1発すらも当てることができないまま虚しく時代の渦に飲み込まれていくのが9割です。
自分を天才と信じて、ただのアホが進み続ける道に、光は殆どありません。
ちなみに私は、未だ自分がそのどちらなのか、判断をしかねています。
信じたい気持ちは山々で、それでも現実は動かないものであって、だからこそ今もずっと悩み続けているのです。
そんな正しく「葛藤」が、この作品には物語として色濃く抽出されていて、どういう結末に至るにせよ、これは自分にとって大事な作品になると序盤から中盤にかけてで理解しました。
結果として、現時点のオールタイム・ベストに入れることになる、文字通り大事な作品へと昇華しました。
「芸術」を選ぶという行為の意味を改めて思い知らされ、自分の在り方を見直すきっかけになりました。
考えた結果、私はアキレスで在り続けたいと、再度己の気持ちを固めさせて頂きました。
「芸術」と「批評」という対比も画商とのやり取りで明確化していき、プレイヤーとしてのスタンスも可視化させていくのは流石だなと思いましたし、オチとしてあの展開をもってくる辺り、言葉を選ばず言うと憎さを覚えました。
個人的には、絶対的な皮肉のように思えて、だからこそより偏愛したくなりましたね。
映画として観れば、至らない部分も多いかとは思います。
映像の切り取り方はそれほど拘っているようには見えませんし、音楽も『Kids Return キッズ・リターン』等と比べればあまり印象にも残っていません。
それでも、貫いたテーマ性とその着地点で、全て持っていかれてしまいました!感服です!